COLUMN

2011.04.01澤田 美奈子

シリーズ「イノベーションの鍵」#4コラボレーションの力

 毎年のこの季節に感じるような明るい気持ちで新スタートを切るということが困難な状況になっています。しかし今回の地震災害をきっかけに、それがたとえ見ず知らずの、何百キロと離れた土地にいる人であっても、人と人が互いに生かし生かされ合い社会は成り立っているのだという思いを改めて深くした人が、非常に多いのではとも思います。
 
 シリーズテーマは「イノベーションの鍵」ということで、実は前回の内藤さんのコラム、「仲間をつくること」という話にも重なる部分がありますが、少し言い方を換え「コラボレーション」というキーワードで綴ってみたいと思います。


 一昨年度より、あるコラボレーションプロジェクトに参加しています。プロジェクトチームは、技術・デザイン・営業・マーケなど、部門を横断して召集されたメンバーで構成されており、その多様性に揉まれながら日々刺激を受けています。
 技術に詳しいメンバーは「こういうモノがあったらいいんだけど」と言う話になったときに、「まだ市場には出ていないけど実はこんなセンサーが開発されていて云々」といったホヤホヤの最先端技術の情報を出してくれたり、実際デバイスを動かして見せてくれたりなど、アイデアの実現可能性を一気に高めてくれる存在です。デザイナーのメンバーの、ふくよかな感受性や、豊かで鮮やかな表現能力は、普段言葉や論理に頼って思考する習慣のある私に、新鮮な驚きと大胆な視点変化をもたらしてくれます。営業やマーケティングに携わるメンバーは、顧客や小売店といった流通に関わる現場の言い分やニーズ、またビジネスとして成立させるための戦略といった地に足の着いた知見をくれる頼もしい存在です。
 こういった多様な知性とともにアイデアを膨らませて実現に向けていくのは、実にやりがいがある仕事です。

 このようにイノベーションを生む鍵となるのは、チームによるコラボレーションです。しかし実はコラボレーションというのは、チーム全体だけでなく、そこに参加する個人個人のイノベーションにも寄与するんではないかとも思うのです。チームの誰かがとても良いアイデアを出してくると、「自分もさらに面白いアイデアを出さなければ!」という気分になったり。調査に出かけるときなどは、「私は他のメンバーよりインタビューやフィールドワークの経験があるんだから、誰より鋭く深い視点で分析できないと研究員の沽券にも関わるぞ」といったプレッシャーとプライドが同時に芽生え、自然と良い仕事をしたくなったり。
 こういう個人に沸き起こるチャレンジングなモチベーションもまた、コラボレーションの大きな効果のひとつと言って良いのではないでしょうか。メンバーに触発されることで潜在能力の開花が加速されるという個人としての進化がひいては、チーム全体の進化にも貢献するという、ダブルのスパイラルアップが、コラボレーションによって起きるのです。

 創造的企業として世界中から注目を浴び、生活者視点のイノベーションを次々と起こしているP&G社のCEO、A・G・ラフリー氏は著作にて、コラボレーション文化をつくるにあたって大事なのは「問題があるのですが、自分には解決できません。誰か助けてくれませんか?」と言える環境をどれだけつくれるか、だと語ります。
 概して日本的な企業文化では、誰にも助けを求めず自分ひとりで解決することがよしとされます。しかし誰かの力を借りることは、弱いこと、依存することとは違うのです。現在点での自分の限界を正直に認め告白することは、未来への自己成長を促すためにむしろ必要な過程です。多様な人々との関わりの中で、自らの新しい側面や可能性に気付いていけるというプロセスは、1人で旅に出て自分探しをすることとはまた違ったよろこびと感動があります。
 大変という文字通り、大きく変わる状況の中、厳しくも手を取り合い逞しく生きている人たちの姿を目にする度、人と人とが出会って共に生きるということの意味に気付かされる春です。
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