COLUMN

2011.05.15田口 智博

シリーズ「楽園のパラドックス」#2大局的に考えるべきこれからの"楽園"

 ゴールデンウィーク期間の5月初めに、私は日本人がよく訪れる観光地の一つである、グアムに出掛けました。グアムの来訪者は4人中3人が日本からというぐらい、日本人にとって身近な旅先です。
 しかし、今年の光景はそれが一変するほど、観光客の少なさが印象に残りました。もちろん、その理由は簡単に想像できます。東日本大震災の影響が日本から遠く離れたグアムでも顕著に表れ、観光客の足がすっかり遠のいていたのです。現地の方と話をしても、例年であれば多くの日本人で賑わい、GW時期だと感じるはずが、今年に限っては明らかに様子が違うということです。同じことは日本国内に目を向けても然りで、海外から訪れる観光客は、震災以降、各地で目に見えて減少しています。
 とりわけ観光が経済の約7割を占める主要産業というグアムでは、経済面で大きな揺らぎが生じていることになります。あらためてグローバル化が進む中で、今回の震災などの甚大なる影響は、特定の地域だけの問題として留まらないことがはっきりと実感できます。

 ところで、日本では今、扇風機の売れ行きが大きく伸びているといいます。震災の影響による夏の電力不足に備えて、人々の節電意識の高まりがその背景としてあるようです。実際、家電量販店を覗いてみると、数多くの扇風機が並べられていました。グアムのような常夏地域ほど強烈な陽射しはないにせよ、近年の温暖化の影響により、日本の夏の暑さも相当厳しいものになることは皆体験済みです。
 したがって、そうした"備えあれば、憂いなし"という考えはよく分かります。そんな話題をある人としていると、昔は「冷風扇」という水が蒸発する際に気化熱を奪い涼しくする簡易な冷房装置があったとの話を聞きました。ただ高温多湿の日本では、室内の湿度が上昇して、体感的にはかえって蒸し暑くなるなどの理由で、最近では目にすることがほとんどなくなってしまっているようです。ここまでいくと、いかにも"昭和"へタイムスリップしてしまうぐらいのレトロさを感じてしまいます。

 前回の中間さんのコラムにありましたが、楽園化する社会や生活という観点では、エアコンから扇風機というシフトは明らかに時間軸の流れに逆行するはずです。そうは言っても、今は電力問題という特別な事情を抱えているため、背に腹は変えられません。一方で、少し前までは政府が主導する形で、エコポイントなるものを動機付けに、家電量販店等では省エネ機器の買い替えに力が注がれていました。緊急時ではあるにせよ、これを機にさらに経済活動を盛り上げながら、省エネ化の社会を築くというポジティブなメッセージの発信も、もっとあって良いように個人的には思います。

 4月末に、ひょんなことから知人からのお声掛けをいただき宇治の平等院を訪れました。今年は寒さが春先まで続いたせいか、境内の藤の花は2分咲き程度と見頃はもう少し先という感じでした。
 平等院は十円硬貨に鳳凰堂が描かれているように、日本人にとっては比較的馴染み深いお寺と言うことができるかもしれません。ご住職で、ランドスケープデザイナーとしても著名な宮城俊作さんから、檀家を持たない平等院では訪れる人をはじめとする多くの人々によって支えられているというお話を伺いました。それにはどこか、現在の震災後の日本において、国民みんなで支え合って困難を乗り越えていこうとする姿勢と相通じるような印象を持ちました。

 今、被災地に対しては、単に以前の街並みや地域社会へ戻すだけではなく、新たなものやスタイルを創り出していくという視点も必要だという声をよく聞きます。また日本全体をみても、電力ではどのようにバランスを取って暮らしを成り立たせていくのか、また諸外国との繋がりをどのように滞りなく円滑なものにしていくかなど、考えるべき課題が噴出しています。まさに、これまでの右肩上がりの成長のみを訴求してきた考え方から、そこでは大局的にこれからの社会が目指す"楽園"のあり方を示す気概が求められているに違いありません。
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