COLUMN

2011.09.15中野 善浩

シリーズ「おひとりさま社会考」#5経験共有マーケット

 単身世帯が増え続けることが確実視されている。そして総体的にみると、可処分所得が増えないのも確実なトレンドだといえるだろう。いっぽう新興国の経済成長などによって、資源価格は上がる傾向にある。いまのところ日本はデフレ状態にあるが、やがて食料やエネルギーなどの基礎物資の価格は上がる可能性もある。節約は大きなニーズのひとつである。
 そこで、多人数で何かを共同で使う「シェア」という利用形態が拡大している。例えば、各人の個室を確保しながらも、リビングやキッチンなどを共有するシェアハウス。1台の自動車を会員が共同で利用するカーシェアリング。いずれも絶対数はまだ小さいものの成長著しい。利用者の推移をグラフに示したが、その後も指数関数的な伸びは続いていると推測できる。サイクルシェア、タイムシェア型住宅など、幅広い分野でシェアは広がっているが、紙面の制約から、今回はシェアハウスとカーシェアリングに言及してみたい。

  「シェアハウス住居白書」によると、首都圏のシェアハウスの居住者の約7割が女性であり、4分の3までが30歳代前半まで、外国人は3割程度を占める。居住動機としては、やはり「初期費用が安い」「家賃が安い」が上位にランクされる。そして、ワンルームマンションなどとは違って、シェアハウスでは居住者のほとんどは挨拶を交わすらしい。互いに「世間話をする」人たちの割合は6割強で、「一緒に食事をする」は4割弱、「一緒にテレビやDVDを見る」が3割強で、相応の交流が行われている。結果的には、過半の人たちが、時間や空間を共有するシェアハウスでの生活を楽しいと受け取っている。一般に、若い女性は市場をリードするといわれるが、シェアハウスにも当てはまるようだ。ただし、わずかながら60歳代の利用者もおり、シニアが今後の有望な対象になると見ることもできる。
 マーケット・シェアと表現されるように、一般に「シェア」には「分ける」という意味がある。しかし時間や空間を分けながらも、経験を共有することができれば、より安定したシェアの形ができるのではないだろうか。シェアハウスに住まう人たちは、ただ節約するだけではなく、楽しい経験も求め、それを自らつくりだそうとする。一石二鳥を狙う、したたかな女性らしい発想だと思う。

 男性の肩も持っておきたい。最近、空いている時間にマイカーを貸したいオーナーと、クルマを借りたい人を仲介する、新たなカーシェアリングも登場している。通常のカーシェアリングでは、運営会社の保有する車種しか借りることできないが、このサービスの場合、数多くのオーナーを集めることができれば、借りる方の選択肢が格段に大きくなる。外車のオープンカーさえ借りることができるようだ。オーナーは利用料金を得ることで、クルマの維持費を補てんできる。そして同時に、自己表現の機会も得られるのではないだろうか。個性的なクルマで、外観が美しく、十分にメンテナンスされているとしたら、それが高く評価され、利用料金にも反映される。「良かった」という感想ももらえるだろう。リピーターが現れ、評価が口コミで広がってゆく。利用者の拡大は、お気に入りのマイカーを丁寧に扱ってきたオーナーの経験への敬意の現れともいえ、オーナーにとって喜ばしいことだろう。クルマ好きのオーナーの多くは男性のはずである。

 ものの所有ではなく、賢く利用することが大切だと言われるようになった。そして人は関係を求める。経験を共有するというシェア市場は増えてゆくと思う。楽しくなければ、節約も長続きしない。
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