COLUMN

2013.06.15内藤 真紀

フューチャーセッションの魅力

「OKY」という言葉をご存知だろうか。中国駐在の現地法人責任者が日本本社の上司から指示や苦言を受けたときにつぶやく、「お前が来てやってみろ」の略語だ。
 
長らく「現場感覚」「顧客目線」の重要性は説かれ続けているが、自分の経験範囲の知識で検討し判断する場合がほとんどで、現場や次工程、顧客の立場から発想するのは言うほど簡単ではない。もちろん、職場では現場や顧客との溝を埋めるための努力はさまざまな形で取り組まれている。メーカーであれば、生産工場や販売店に行ったり、顧客と会ったり、相手の状況を理解しよう、相手の感覚を共有しようという行動は日常的に行われている。
私が携わっている調査研究の仕事は、テーマを設定し、情報を集め、自分で、または専門家の助言を得ながらインサイトを発見し、展望や提案としてまとめる、というものだ。成果が現場の実情からまったく離れたものになっていないか気にしながら進めているのが実情である。さらに、分析の見方や提案が偏狭になっているのではという不安もつきまとう。しかし現場に役立つ内容づくりや広い視野からの洞察など、1人の人間のできることにはおのずと限界を感じざるを得ない。
 
そんななか、「フューチャーセッション」についてお話をうかがう機会を得た。フューチャーセッションとは、市民、企業、社会起業家、専門家など多様なステークホルダーが集まり、アイデアを出し合う対話の場。参加者で将来の社会・生活のありようを具体的に描く未来シナリオをつくり、ありたい未来のためにいま何をすべきかを考え、参加者それぞれがイノベーションにつなげていくものだ。
 
フューチャーセッションの特徴は、参加者同士が互いの思いやビジョンを理解し協調へ展開していくような関係づくりを重視している点だ。それは、人を情報収集・分析の対象ではなく、未来を考え創造するパートナーとして捉えているためである。その関係が基盤にあるため、参加者をはじめ、参加者のネットワークもイノベーションに巻き込むことが可能になる。また、アウトプットとして完成する未来シナリオは、協業を具体的に進めるうえでの手がかりにもなる。
問題は、セッションを行ってすぐ何かのイノベーションが生まれるというわけでは当然ないため、単年度で目に見える(利益につながる)結果が求められがちな企業では理解されにくい点だ。しかし、時間をかけて関係構築を進めること、未来シナリオをつくっておくことで、結果的に以後のイノベーションを効率的かつスピーディ、創造的に進められるという。なるほど。
 
こうした手法を導入する企業もふえてきたようだ。遅ればせながら、今後、多様なバックグラウンドをもつ人とともに考えていくプロセスを積極的に研究に組み込んでいきたい。現場の事情を共有したうえで、自分だけでは考えつかなかったような分析や提案につなげられたら・・・という欲とともに、関心をもって集まる人たちがそれぞれ刺激を得ることができたら、と思う。
名づけて「MAY(みんなで集まってやってみよう」。「OKY」と毒づかれる前に。
 
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