COLUMN

2013.07.15中野 善浩

夏、快楽追求を通じて省エネできないか?

3年ほど前から、縁あって夏はステテコを着用している。カラーリングなどは、モダンにデザインされているものの、生地は、伝統の縮み織りの綿である。極細の綿を強くよりをかけて織ると、糸の密度が高くなり、生地の面積が縮み、表面に細かな凹凸ができる。すると身体と接触する面積が小さくなり、サラッとした着心地となる。細かな糸の集積によって汗をよく吸収し、乾きも早い。近年、ステテコ人気が高まり、大手アパレルチェーンなどでも販売されるようになった。しかし値段は正直。現時点では、高品質の伝統的素材でつくられたものに軍配が上がると思う。
 ステテコには不思議な涼しさがある。涼しさを売り物にする素材は他にもあり、例えば、ポリエステルもそのひとつで、滑るような肌触りにはヒンヤリとした清涼感がある。いっぽう縮み織の綿は、綿の熱伝導率が低いこともあり、暖かさが感じられる。言葉としては矛盾しているが、暖かさのなかに涼しさがある。スイカに塩をかけて食べると、甘く感じる対比効果のようなものだろうか。また、ステテコはとても軽量で、着衣したときの解放感があり、それも涼しさの一部となる。
ステテコの販促に東奔西走する若旦那いわく。「将来はラスベガスに打って出たい」。彼は、老舗旅館に縮み織りの部屋着を納入している。その旅館には、相当数の外国人観光客も宿泊し、彼らは縮み織りの気持ち良さを実感した後で、ステテコを買い求めに来るという。もちろん縮み織りのシャツなども快適である。しかし、股間や膝の裏などは、多くの汗をかくにもかかわらず、着衣の形状から空気がこもりやすい。はっきりした不快感はなくとも、何となくすっきりしない違和感、物足りなさがある。それらを解消し、気持ち良い肌着としてステテコがつくられた。高温多湿の日本だからこそ生まれたものであるが、身体の構造は人間みな同じであり、ステテコの気持ち良さは世界に通用するはずである。筋の通った論理である。
 
涼しさといえば、最近、グリーンファンという扇風機が注目を集めている。この扇風機の最大の特徴は、二重構造の翼であり、速さの異なる2種類の風を送り出すことにある。2つの風に速度差、圧力差があるために、扇風機の前方で風がぶつかりあって、面としての風になって前方に送り出されていく。従来タイプの扇風機では、渦として風を送ってきたが、自然の風は面として吹いている。長く自然のなかで生きてきた人間は、自然のような風を快適に感じるということなのだろう。
量ではなく、性質に着目して風をつくる。すると速度の低い風でも十分であるから、エネルギーも少なくてすむ。グリーンファンの電力消費量は、従来タイプの10分の1ほどである。そのために、また涼しさが生まれてくる。翼の回る速度が低いので、扇風機特有のブーンという風を切る音は小さい。微風モードであれば、風を切る音はほとんど聞こえず、翼の回転軸かゆっくりと転がっていく微かな音が間欠的に伝わってくる。シュルーン、シュルーン、......。風鈴がそうであるように、ゆったりとした音は涼しさになる。
 
「快適性を落とさずに、省エネも実現する」とが議論されることが多い。しかし、さらなる心地の良さ、快楽などを追及するアプローチもあってもいいではないだろうか。快楽であり、かつ省エネにも結びつく。ステテコと扇風機の他にも、多くの可能性があるはずである。例えば、身体に優しい天井冷房。気兼ねなく使える太陽熱冷房。自然の風を効果的に取り込む建物。「夏をむねとすべし」という日本だからこそチャンスはあるように思う。
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