COLUMN

2005.04.01鷲尾 梓

2015年の日本へ-「明日に向けて、今を生きる同時代人たち」発刊にあたって-

 本日4月1日、HRI生き方リサーチレポート「明日に向かい、いまを生きる同時代人たち」を発刊した。
 2001年から実施してきた「シニア世代」「ミドル世代」「ヤング世代」各世代別の価値観・ライフスタイル調査を終え、生き方リサーチレポートのひとつの節目となる今号では、20代から60代までの全国1000名を対象とした価値観・ライフスタイル調査の結果を紹介するとともに、定量的なデータからだけでは表現しきれない、各世代の想いや生きる姿勢について、阿部夏丸さん、金原瑞人さん、保坂和志さん、三田誠広さん、4人の作家の方々に、豊かに描いていただいた。

 今回、定量調査の対象には含まれなかった「子ども」について書いていただいた、阿部夏丸さんの「子どもが大人になりたくないという国は滅びる」という記述が、強く印象に残っている。「早く大人になりたい」という子が、「小学生で20%、中学生で0%」という記述にはショックを受け、「0%」はミスプリントではないかと思ったほどだ。

 しかし、子どもが「大人になりたくない」という原因をうかがい知ることのできる要素は、アンケート調査結果にも色濃く現れている。とくに男性では、小・中学生の子育て期にあたる30代~40代の満足感や幸福感が低く、自分の生活に合うイメージとして「我慢」を挙げている人が多い。そんな親の後姿を見て育つ子どもたちの目に、「大人になること」が魅力的に映らないであろうことは想像に難くない。

 さらに、「10年後の日本社会」に関するさまざまな事がらについて予測を求めた結果では、全体的に治安の悪化や学力の低下を予測する人が多く、反対に、「地域住民としてのつながりの意識が強まっている」「塾に行かなくても学校で十分指導を受けられるようになっている」などと予測する人は少なかった。調査結果から描かれる未来社会像は、概して楽観的なものとはいえない。

 この結果を眺めながら、考える。「そうなると思う」か、「そうならないと思う」かではなく、「そうなって欲しい」か、「そうなって欲しくない」かを尋ねたら、どんな結果が得られただろうか。「治安の悪化」や「学力の低下」は、もちろん誰もが「そうなって欲しくない」と答えるだろう。しかし、8割以上の人が「そうなると思う」と答えた「夫婦共働き家庭の増加」や「少子化」「転職の増加」「実力主義の徹底」、あるいは「そうなると思う」人が2割を下回った「地域住民としてのつながりの意識が強まっている」という予測ではどうだろうか。

 私たちはこれらの変化を、女性が働く機会の増加や、労働者と組織の関係の変化、都市化など、望んできた変化と、それに伴う副作用との延長線上にある、「必然」としての未来のようにとらえてはいないだろうか。しかしそれは、あくまでも「現在」のレールの延長線上を走り続けた先にある未来像でしかない。そのレールを走り続けるのも、ブレーキをかけるのも、軌道修正をするのも、全てその列車に同乗した「同時代人」たちの肩にかかっている。

 今から200年以上前の1770年、フランス人のセバスチャン・メルシエールという人物が、「西暦2440年」という本を出版した。この中で彼は、「国民はみな豊かになり、ホテルはなくなり、旅をしても、どこの家庭でも旅人をあたたかく迎え入れてくれる」と書いている。彼にとって、「豊かさ」とは、インターネット上でいつでも予約可能なホテルが増えることではなく、ホテルが不要になることであった。

 彼の予測は、今日の私たちの目には、現実性の乏しい、願いにも似た予測のように映る。しかし、その予測が実現するかどうかは、人々が何を豊かさと信じ、追求するかにかかっているようにも思える。10年後の2015年、今回の調査で描かれたよりも豊かな未来から、現在を振り返りたいと願っている。
(小山梓)
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