COLUMN

2015.05.01内藤 真紀

チャレンジ成功の公式

 ひと月ほど前、東京大学教養学部卒業式での石井洋二郎学部長(当時)の式辞*が話題になった。健全な批判精神をもつことを訴える部分が主に評判をよんでいたが、式辞の締めくくりに、ニーチェ『ツァラトゥストラ』の一節を引用したうえで語られた、次のメッセージも魅力的だ。
「皆さんも、自分自身の燃えさかる炎のなかで、まずは後先考えずに、灰になるまで自分を焼きつくしてください。そしてその後で、灰の中から新しい自分を発見してください。自分を焼きつくすことができない人間は、新しく生まれ変わることもできません。」 
このような行動をひと言で表すなら、たとえば「チャレンジ」ではないだろうか。チャレンジは、ぶれない信念をもって目標に向けた行動を完遂させるもの。そして、行動そのもの、また行動の結果寄せられる周りの意見や評価によって、自分の長所短所を発見したり、成長を感じたり、さらには次の挑戦へのビジョンと意欲を育む。
式辞を聞いた卒業生のほとんどは何らかの組織に入り、社会人としてのスタートを切ったことだろう。それぞれの場で、さまざまなチャレンジに取り組んでいってほしい。同時に、組織の側には、若者たちの積極的でまっすぐな行動を受け止め促す環境や度量の存在が問われているように思う。
 
昨年度「組織でのチャレンジの成否を分けるものは何か」という調査をしたので紹介したい。
この調査は、企業でのチャレンジ(高い目標や新しい目標を立て、困難な状況や経験のないことにも取り組むこと)を促す要素を22抽出したうえで、「チャレンジ成功者」「不成功者」別に職場におけるチャレンジ促進要素の有無を調べ、比較したものだ。成功者と不成功者で差が大きい要素ほど、チャレンジの成否に影響している可能性が高いと考えた。対象は、首都圏・関西圏の製造業に勤務する正社員。チャレンジ成功者グループ(777人)と不成功者グループ(49人)に分け、グループごとに22要素について、そのような環境が「ある」と答えた人の比率を算出。成功者グループの「ある」回答者比率から不成功者グループのそれを差し引いたポイントを比較した(グラフ)。
 
その結果、「強い意志と貫徹力」「風通しのよさ」「個と個の連結」「自主性尊重・権限委譲」「組織間の連結」「ぶれない信念・価値観」に、30ポイント以上の差が生じていた。チャレンジの内容によって必要な環境も変わってくるため、この結果のみで単純に判断してよいわけではないが、基本的な傾向としては、思いの強さと連結度合、これがチャレンジの成功にとくに好影響を与えていると考えられる。
なお、30ポイント以上差のある要素のなかで比較的不足していそうなのが「個と個の連結」「組織間の連結」「風通しのよさ」だった。これら要素が「ある」とする人は4割台にとどまっており、22要素の平均値を下回っている。社員間や組織間の壁の存在は多くの企業で問題視されているが、この調査でもその傾向がみられた。
今後の組織運営を考えるうえで、これらの点も考慮していけたらよいと思う。新入社員のみならず、中堅以降の社員もよりチャレンジをしやすい環境になっていくのではないだろうか。
 
http://www.c.u-tokyo.ac.jp/info/about/message/oration/
 
 組織環境要素のチャレンジ成否影響度合い
 
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