COLUMN

2016.12.01田口 智博

"コト消費"を働き方改革の後押しに

「ファミレスの大手チェーンが業界では異例の定休日を設ける検討を進めている」というニュースが最近リリースされていた。外食業界では、これまでにも24時間営業を廃止するなど事業運営のあり方を見直す取り組みがみられたが、こうした新たな動きは、昨今の労働を取り巻く社会状況とも相まって、従業員の働き方改革が本格化する一歩になろうとしている。

飲食業に限らずあらゆる業種において、顧客のメリット・利便性の最大化に向けた取り組みが至上命題となり、その実現をいかにして図っていくかという注力がなされ続けている。その重要性はおそらく今後も変わらないであろう。
一方で、世間ではそうした企業活動の中において、働き手が過度な労働を負わされていないだろうか?という厳しいチェックの目が向けられるようになってきている。"働き手の労働環境を良くしながら、顧客満足・理解の得られる商品やサービスの安定提供を進めていく"、このバランスを取っていくことがまさに今最も求められようとしている。

このような社会の潮流の中、働き手と顧客の関係性についてみてみると、足下では人々の消費への要望の変化とともに、新たな消費のスタイルが生まれつつある。
たとえば「食べる通信」というものをご存知だろうか。これは、食の作り手を特集した情報誌と、そこで収穫された食べものがセットで定期的に届く"食べもの付き情報誌"の販売を事業としている。主役は情報誌、食材はあくまでその付録という表現がぴったりとくるものだ。毎回、特集された作り手と直接つながる交流イベントや現地ツアーをはじめさまざまな仕掛けも用意されるなどして、消費者に新たな食体験を提供することで人気を博しているという。
今では、生産者の顔が見える食材といった安心・安全を訴求するスタイルはポピュラーになりつつあるが、ここでは作り手と消費者の双方が、SNSやリアルにつながるところまで踏み込んでいることが特徴的だ。第一次産業である農業や漁業というと、その働き手の大変さばかりがイメージとして付きまといがちであるが、こうした取り組みからは消費者が作り手への理解を深めながら満足感を得る。また、作り手も消費者との交流によって自信を得て、より良い働き方につながるという相乗効果が出ているそうだ。

"働き方改革"という言葉を盛んに見聞きする現在、その実行の加速には企業や働き手の取り組みだけでなく、その顧客や消費者となりうる私たち一人ひとりの意識を変えることも欠かせないとの指摘はしばしばなされている。幸いにも、近頃は生活者の価値観の変化によって、単なる"モノ消費"ではなく"コト消費"が重視される傾向が強まりをみせ、前述の事例のように働き手と顧客の相互理解を深めることへのハードルは下がりつつある。こうした新たな消費のあり方を味方に、社会全体として働き方改革への追い風としていきたいところだ。
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