COLUMN

2006.02.01鷲尾 梓

「好奇心」が街を動かす-男性であふれる『女性向けコンビニ』-

 一ヶ月ほど前、職場の近くにピンク色のコンビニエンスストアがオープンした。受け取ったチラシに書かれていたコンセプトは、「女性の女性による女性のためのコンビニ」。ふつうのコンビニとどう違うのだろう、という好奇心から、昼休みに足を運んでみた。店内に足を踏み入れて驚いた。男性が、多いのだ。

 一般的にコンビニ利用者の男女比率は男性が65%、女性が35%といわれている。しかし、団塊世代の引退、女性の就労率の増加などから、オフィス街の女性のニーズを把握し、それに答える重要性が高まっている。そこでam/pmジャパンが虎ノ門に第一号店をオープンさせたのが、「女性の女性による女性のためのコンビニ」、「HAPPILY」である。

 「女性に便利で、ちょっとしたうれしさや楽しさがある店舗」をうたうこのコンビニには、小分けした惣菜やデザート、輸入菓子、化粧品、サプリメントなどが多く並ぶ。特に、サプリメントやジューススタンド、ウォーターサーバーなど、「美と健康」を意識したブースが注目を集めている。また、トイレには試供品や化粧台、全面鏡、ストッキング履き替え台などが設置されていて、アロマの香りが漂い、居心地の良い空間になるようにとの心配りがされている。深夜を除き、店員も全て女性だ。

 このコンビニの立ち上げにあたっては、徹底的なグループインタビューが実施され、従来のコンビニに対する女性の不満や期待の声が反映されたという。店内には、確かにこれまで「あればいいのにな」と思っていた商品やサービスの工夫がされている。たとえば、ふつうよりも小さく、デザインにもこだわった器に盛られたヘルシーな惣菜は、「揚げ物が多く、量が多くて食べきれない」「器が無機質でおいしく感じない」という「コンビニ弁当」のイメージを一変させる。セイロに並べられた中華まんやショーケースに入れられたケーキも、女性の声を取り入れて実現されたものだという。

 もうひとつ特徴的なのは、ランチの惣菜や飲み物とともに、化粧品や輸入雑貨などが並べられている点である。「便利さ」だけでなく、「ちょっとしたうれしさや楽しさ」を提供する、というこのコンビニのコンセプトによるものだ。ランチを買いに来た女性客が、雑誌で話題の化粧品を取り上げたコーナーや、輸入文房具などの前で足をとめ、思い思いに買い物を楽しんでいた。

 「女性向け」コンビニは、しかし、「女性専用」コンビニではなく、男性も入店することができる。おもしろいことに、店内を賑わわせていたのは女性よりむしろ男性のほうだった。多くの女性客が一人で訪れているのに対して、男性は4・5人のグループでかたまって、遠慮がちに店内を見てまわっていた。その多くが20代から30代の彼らは、オープンしたての新業態のコンビニを偵察するマーケターというわけではなく、私と同様、新しいコンビニに好奇心を抱いたごく普通のビジネスマンのようだった。

 「女性のためのコンビニだから、女性の邪魔をしてはいけない」とでもいうように、あちらこちらで女性客に遠慮をしながら、珍しそうに商品を手に取っている彼らの姿を見ていると、このコンビニはむしろ男性にとって興味深い空間なのかもしれない、と思えてくる。便利さを追求し、余計なものをそぎ落としてきたコンビニが、今度は「うれしさ」や「楽しさ」を追求し始めているという現象、女性をターゲットとしたその店に、男性が関心を寄せているという現象は、「便利さ」だけでは満たされない私たちの欲求を表しているのかもしれない。「好奇心」が今、街を動かし始めている。
(小山梓)
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