COLUMN

2019.09.02張 智英

「シンギュラリティ」に向けて準備すること

~AIが描く未来を中心に~

 HRIに入社してたった2か月も経たない。その私にとってのSingularity University(SU)のグローバルサミットはワクワク過ぎる初出張とともに海外への未知の領域に一歩踏み出せる機会となった。
 8月19~21日3日間サンフランシスコで開催されたSUグローバルサミットに参加してきた。SUグローバルサミットは、先端技術の専門家を集め、技術が現在もしくは近い未来のビジネス、ライフスタイル、社会のエコシステムをどのように変化させようとしているのか、またそれらを人類の最も差し迫った課題に適用する方法を探求している。人工知能(AI)、センサー、ネットワーク、ロボテックス、3Dプリンティング、拡張現実と仮想現実(VRとAR)、ブロックチェーン、合成生物学(構成生物学)、宇宙、エネルギー、食べ物、交通、寿命や健康、コミュニケーションなど様々の領域でトークセッションとパネルデスカッションを通じた最新トレンドや知識に触れることのできる人生の中で最も刺激のある3日間であった。

 SUの共同創業者であるPeter Diamandis氏は、21世紀にはより多くの知識を共有し、より高速かつ低コストで、かつてないほど多くの人々が最先端のデジタル技術により「人生のあらゆる歩みが20〜30年ではなく、この10年で大きく変わる」という。しかし、我々はどうやってその流れに参与することができるだろうか。また、変化が速すぎて追いつかない場合はどうなるのか。更に、未来は我々が思っているより早く到来するかもしれないという予測に対してどのような準備をすることができるのだろうか。これらの問題意識に対する対策としては、「飛躍的なスピードで発展するテクノロジーを素早く人間と社会へ導入および適用し実装を試みること」、「それに対して生じる社会問題や課題を最先端技術の力で解決できる領域を探ること」、また「直面している問題へ既に適用させた技術をよりアップデートしていくこと」などがこの10年間の変化に向けて目指すものであると考えられる。

 サミットで最も話題であったのはAI。AIテクノロジーは、世界的に大企業や組織がそれを導入・適用している事例が増えている。また、AIを人間化することに対し、人々がお互いに顔を合わせてやり取りするとき、感情的かつ知的関与の相互作用をマシンに同じくもたらすと、マシンはより人間的なものになる。ここで重要な見解は、これらの機械が我々にとってより役立つことができるということである。マシンが実際に我々にもっと似ていれば、我々にとってより興味深いことができ、得られるものは増えることに間違いない。もちろん、技術、ビジネス、倫理的な観点からAIと機械学習というテクノロジーが世界の前向きな変化にどのように使用できるかを検証する、またそれに伴う社会にもたらすインパクトや課題を解決することも必要である。

 加えて、AIテクノロジーはそれぞれの技術と「コンバージョンス(融合)」させることで、新たな技術を生み出し、大きな価値をもたらすという可能性が高まってきている。つまり、AIテクノロジーを基盤化(ハードウェア)とし、それぞれの技術(ソフトウェア)を融合させ、膨大なアウトプットを生み出すことができるといえる。例えば、世界は2030年までに貧困を終わらせようとしているが、世界の貧困時計に世界中のリアルタイムの貧困統計情報が表示されている(出典:The World Bank. http://iresearch.worldbank.org/PovcalNet/povDuplicateWB.aspx)。これは国レベルにドリルダウンができ、一部の国では準国家的なデータもある。要するに、AIテクノロジーを基盤にすると、世界で何が起こっているのかを理解し、我々が生み出すべき新しい世界的な見出しを提示することができる、貧困を終わらせるための最も価値のあるデータを集め、技術で解釈した政策提示や制御できるツールが生み出されることである。

 今回SUグローバルサミットでは、AIとデジタル技術の融合からくる新たな価値の可能性と今後どのように活用していくのかに対するトークが主流となったが、特にAIと連携できるような既存もしくは新たな技術がどのように飛躍的に増えていくのかなどの次回のサミットに期待を与えてくれた。飛躍的なスピードで発展するテクノロジーを素早く受け入れようとする社会の試みをじっくりと実感し、それに伴う問題や課題を解決していく社会の動きを、これからの10年間、私はパラダイムとエコシステムの変化に注目したい。
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