COLUMN

2020.05.07田口 智博

未来へ備えとなる共生

 今年のゴールデンウイークは、新型コロナウイルスの影響を受けて、社会の状況が一変しました。多くの人にとって、外出を自粛する“ステイホーム”というこれまで経験をし得なかった日々になったことと思います。その一方で、私たちが自宅で生活を営む上では、医療やスーパー、ドラッグストア、配送などの仕事に従事している方々への感謝の念は、日を追うごとに大きなものとなっています。

 このような暮らしに欠かせない職業に携わる人を総称して、最近では「エッセンシャルワーカー」と呼ぶようになっています。コロナ禍において、世界中で外出自粛や都市封鎖が相次ぐ状況は、私たちひとり一人に対して、「何が必要で、何が不必要か」という物事の本質を問い質す機会にもなろうとしています。今後、こうした動きは社会の大きな変革を呼び起こすきっかけにもなり得るため、世間では現在のコロナ禍を経たパラダイムシフトやゲームチェンジャーに関する議論が少なくありません。

 ところで、昨年度、私はグループ全体の長期ビジョン策定のプロジェクトに携わっていました。ちょうど1年前、それは2030年以降の社会とこれからの10年という世界観、また社会変化が企業にどのような変化をもたらすかという事業環境を捉えるところから検討をスタートしたことが思い返されます。
 社会の潮流を押さえていく中でみえてきたことは、オムロンが経営の羅針盤とする未来予測「SINIC理論」が言及する「最適化社会」が、次の10年に合致するということでした。その社会は、これまで以上に世の中の課題の複雑化が進み、社会や人々は混乱と葛藤の最中に置かれる期間であるとされています。

 その際、課題を複雑化させる社会問題の一つとして、一般にも広く指摘されている気候変動を捉えました。現実に上昇を続ける地球の平均気温が、自然災害や感染症などによる健康被害の深刻化を招き、それらは多くの人が肌感覚として実感可能なレベルの課題になってきています。しかし、今回の新型コロナウイルスという世界同時多発的に生じる課題までは、私たちが10年を見通す中でも残念ながら捉えきれておらず、また多くの人にとっても想像に及ばなかったのではないでしょうか。

 未来を考えていく上では、年々、先の見通せない時代といったことが叫ばれるようになってきています。それは現在の感染症のパンデミックにみられるように、これまで不確実性が高いと思われていたにもかかわらず、いとも簡単に現実のものとして起こっていることからも明らかです。
 こうした現状を踏まえると、もはや未来を確率論的に捉えるということだけでは、立ち行かなくなりつつあります。ならば未来は不確実性が高まり続けていくという前提のもと、今回の感染症のパンデミックに限らず地球温暖化に起因するさまざまなことも然り、これからは起こりうる事象をいかに受け容れて共生を図っていくかを念頭に置いた備えが大切になってくるに違いありません。
 なかでも人類と感染症との歴史はそれを如実に表しているように、そこからの学びは少なくありません。今回の新型コロナウイルスでは、私たちがウイルスと共生できる日常が取り戻せるよう、一日も早いワクチンと治療薬の開発が待たれるところです。それまでは、ひとり一人が可能な行動の自粛を肝に銘じて、実行し続けなければとの思いをあらためて強くしています。
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