COLUMN

2020.06.03小林 勝司

“New Normal”はセカンド・ルネッサンスへと向かうのか

ポスト・パンデミックでもたらされる“New Normal”を牽引するキーパーソンとは、美術、舞台、音楽、演劇といった文化芸術セクターの人々ではないだろうか。

彼らは、COVOD-19という予想だにもしないブラックスワンの最大の経済的な被害者と言えよう。音楽や舞台公演は軒並み中止となり、多くの美術館や博物館は閉鎖に追い込まれた。世界的人気の演劇集団『シルク・ドゥ・ソレイユ』が破産申請をしたことはまだ記憶に新しい。しかしながら、こうした逆風を受けながらも、感染が集中する街中でバイオリンを演奏し、その様子を撮影した動画が世界中でシェアされ、多くの人々に勇気を与えるなど、文化芸術の持つ影響力の高さが再認識されつつある。

こうした流れも追い風となり、今、文化芸術を重視する一部の欧米諸国では、同セクターに従事する人々への支援策を次々と打ち出している。例えば、フランスでは、舞台芸術・映画従事者の失業手当受給条件が緩和されたり、ドイツでは、芸術・文化・メディア産業における中小事業者への無制限支援を表明したり、イタリアでは、作家・芸術家等を対象とした巨額の緊急基金が創設されている。さらに、中東のアラブ首長国連邦では、様々な展覧会中止を受け、外務省の公共・文化外交部が40万ドル分の芸術作品を購入するなど支援の輪は拡大している。さらに、文化芸術セクターに従事する人々にはフリーランサーが多く、こうした弱者視点の社会制度も整備されつつある。恐らく、これまでフリーランサーにとって懸念事項であった、継続的な仕事の維持、雇用側への正当な権利確保、自己投資となる教育資金確保などが払拭されていくことであろう。

今、米中といった大国間では、自国経済のV字回復のみに囚われた、ポスト・パンデミックを見込んだ覇権抗争が顕在化している。あたかも、それに抵抗するかのように、文化芸術活動をコアにした、真の人間幸福追及へと原点回帰するセカンド・ルネッサンスが勃興していくのではないだろうか。
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