COLUMN

2020.08.03田口 智博

社会潮流を捉えた新たな価値づくりに向けて

 HRIは、オムロングループのイノベーションを推進する部門の一員として、社会の潮流を起点に新たな事業構想を描くというミッションの下での取り組みを進めています。「潮流を読む」と言われるように、今、社会にどのような変化が起こっていて、それが5年後の未来にはどのような状態へと変化をしているか。これからの社会、延いては時代を含めて読み解くことが活動の出発点となります。

 年初からのコロナ禍が依然として続き、終息を見通せずにいる混沌とした状況ですが、私たちは現在、2つの社会潮流に注目をしています。一つは、人の生存、地球環境の保全をはじめとする“持続可能な社会づくりの加速”。もう一つは、ヒト・モノ・カネ・情報・時間といった“リソースの最適な活用の加速”です。
 企業のビジョンデザインに取り組まれている社外の方と最近お話をした際、アセットのシェアリングはこれまでも進展してきている一方で、そこにサーキュラー・エコノミーという観点を組み合わせていくことは、今後の確かな潮流であるとのコメントが聞かれました。
 また、国外に目を向けると欧州を中心に、日本に先駆けて新たな社会潮流が生み出される様子が顕著にみられます。つい先日、デンマーク出身の方とやり取りをさせてもらう機会があり、デンマークでは、政府が2年前の2018年にサーキュラー・エコノミー戦略を発表して以降、既に多くの企業や公的機関がサーキュラー型の製品設計やシェアリング型のビジネスへと舵を切り、取り組みを推進しているといいます。

 このようにシェアリングやサーキュラーという潮流には、社会を大きく変えていくポテンシャルがあることが窺えます。一方で、企業がいざそれらの変化を捉えて、事業を通じて社会に新たな価値を生み出していくとなると、その実現には大きなハードルが立ちはだかることも同時に感じるところです。
 というのも、これまで社会の成長は、こうした潮流とは真逆のアプローチによって成し遂げられているからです。たとえば、製造業の目線でみると、製造設備はシェアではなく自社で囲い込み、いかに競争優位性を高めていけるかが追及されてきました。また、製品づくりの資源調達は、地球環境への配慮ありきではなく、経済合理性の判断が常に優先されてきました。こうした流れは、先進国を中心に、ひとり一人がたとえ社会が成長一辺倒では立ち行かなくなってきていることを肌で感じる最中あっても、社会を新たに変えていく動きへとは一足飛びには踏み出しづらい現状があります。

 最近では、こうした成熟期の社会の新たな姿を実現するために、地球環境保全の名の下にグローバルでの法規制の強化が進みつつあります。プラスチック材の利用抑制を目的に、国内では買い物の際に、消費者がエコバッグを持参する新たな慣習づくりがスタートしたことも、記憶に新しいところです。企業においても資源のリサイクル・リユースに向けて、中長期にわたる投資を加速する動きが顕著になってきています。

 こうした現在の企業活動や私たちの生活に対して迫られる変革は、あくまで社会潮流の取っ掛かりに過ぎないという見方ができます。それは、規制やルールに縛られた中での投資やコスト負担が、持続可能な仕組みにはなかなかなり得ないからです。デンマーク出身の方とのやり取りからも、持続可能な社会の実現には、企業だけでなく消費者の参画を含めたエコシステムづくりが重要であるとの示唆をもらいました。デンマークでは、市民参画型の実証実験「リビング・ラボ」という活動を通じた、新たな事業機会の探索、そして社会実装が推進されているそうです。
 私たちHRIでも、社会潮流を起点に、人と社会のより深い理解を拠りどころに、企業と消費者が連携し合い、あらゆるステークホルダーにとっての価値が、相互に循環し続ける事業構想化を目指して取り組んでいく思いを強くしています。
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