COLUMN

2006.12.01鷲尾 梓

「飲んだら乗るな」の先へ-飲酒運転を防ぐ知恵-

 「飲んだら乗るな、乗るなら飲むな」
このフレーズは誰でも聞いたことがあるはずだ。誰もがわかっているのに、なかなか飲酒運転がなくならないのはなぜなのだろうか。

 飲酒運転による事故が後を絶たない中、飲酒運転に対する厳罰化が進められてきた。2001年には道路交通法が改正され、「酒酔い運転」「酒気帯び運転」の罰がそれぞれ大幅(罰金額で5~6倍)に引き上げられている。また刑法には「危険運転致死傷罪」が新設され、飲酒運転で事故を起こし、人を死亡させた場合の罪は「業務上過失致死」(5年以下の懲役もしくは禁固、又は50万円以下の罰金)から「危険運転致死」(1年以上15年以下の懲役)へと改正された(さらに2004年改正により「20年以下の懲役」に)。

 飲酒運転の原因のとらえ方が「過失」から「故意」に変わってきたことを背景に、自治体や大企業では、飲酒運転をした職員や社員を免職(懲戒、諭旨)とする所が増えており、飲酒運転に対する社会的制裁も強まりを見せている。これに加えて、運転者以外の者についても、運転することを知りながら一緒に飲酒をした者や酒を提供した店、飲酒を知りながら同乗した者が「飲酒運転ほう助罪」で摘発される事例も増えてきている。「飲んだら乗るな」という言葉が、以前よりも重みを増してきているのは確かである。

 しかし残念ながら、飲酒運転による事故は後を絶たない。その原因としては、「このくらいなら大丈夫」「つかまらなければ大丈夫」という判断の甘さや、車に代わる交通手段がないことなどが挙げられている。これらを受けて、近年では、飲酒運転に対する働きかけのあり方も徐々に変わってきている。
 
 ハード面からのアプローチとしては、「イグニッションインターロックシステム」と呼ばれるシステムの導入が進められている。このシステムは、運転者がエンジンをかける際に装置に息を吹きかけ、呼気の中に一定濃度のアルコールを感知するとエンジンがかからないというもの。米国やカナダの多くの州やイギリス、フランスなどではすでに飲酒運転違反者の再犯防止のために違反者の車に設置することを義務付けており、スウェーデンでは、2012年からすべての新車に設置することを決めている。

 一方、飲酒が運転に及ぼす影響に対する理解の促進を重視し、10年ほど前からユニークな実践を続けているのは、オランダのフローニンゲン大学のカレル・ブルクフイス教授。テストコースを用意し、飲酒した状態の運転者にコース走行や駐車などの体験をさせている。体験者は、素面の状態と飲酒した状態でできることの違いを知って愕然とするという。

 オランダは、「ボブ運動」と呼ばれる運動が発祥し、定着している地でもある。「ボブ」とは、グループで車で飲食店に行った場合に、飲酒をせずに運転を担当する人のこと。この運動は日本でも「ハンドルキーパー運動」として、去る10月27日から開始されている。オランダ同様、グループ内で飲酒をしない人(ハンドルキーパー)を決めることを呼びかけると同時に、酒類を提供する飲食店の側にも、車で来店したグループのハンドルキーパーを確認し、目印となるものを手渡すこと、運転代行を依頼して帰る客に対しては、その確認ができるまで車のキーを預かることなどを求めている。「意識改革」を具体的な形で行っていく試みと言えるだろう。

 車に代わる交通手段を確保するため、飲食店では、送迎の実施や交通費・駐車料金の補助などのサービスを行う試みも行われてきている。忘年会シーズンの12月、大分県佐伯市では、飲食業連合組合と観光協会によって、飲食店の利用客にタクシー代などの半額までを支払うことのできる「サービス券」の配布を予定している。愛知県豊田市では、加盟店で飲食した利用客が駅周辺の駐車場に翌日正午まで無料で駐車できるサービスが試験的に行われる。広島県尾道市では、週末に飲食店の利用客を自宅近くの路線バス停留所まで送る無料の深夜バスが運行される。公共交通機関もサービスの拡大に乗り出しており、JR九州大分支社は、12月中、一部で臨時の「深夜列車」を走らせることを決めている。

 特に公共交通機関の不便な地域では、厳罰化を進め、意識改革を求める一方で、このような、「飲んだら乗らない」ための環境の整備が不可欠だ。それぞれの立場から知恵を出し合い、正しい選択をしやすくする環境を整えていくことが、問題解決の鍵となるのではないだろうか。 (鷲尾梓)

<参考>
○(財)全日本交通安全協会「飲酒運転追放『ハンドルキーパー運動』の実施について
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