COLUMN

2008.07.01澤田 美奈子

女のこだわりが生み出す安心

 あくまで一般論だが、男性よりも女性は、衣服の素材のささいな違いや、料理の微妙ないろどりにこだわりを見せる人が多い。
 「どの服も見た目に一緒だろ」とか「同じピーマンなんだから赤でも緑でもいいじゃないか」とか、「女っていちいち細かいことを気にするよな」と男性は言うかもしれないが、その細やかな気遣い、妥協のない心配り能力は、女性ならではの特性であり武器にもなる。
 単なる機能性や効率性、利便性だけでなく、そこにちょっとしたこだわりを加えることで、プラスアルファの楽しさやここちよさにつなげていく、そんな女性ならではの気の利いた心配りがふんだんに感じられるサービスを展開しているビジネスがある。

 「駅」という場所の基本は、電車が発着するところだが、最近は駅も、ただの通過する空間ではない。駅構内で買い物や食事を楽しめるエキナカ商業施設「エキュート」の開発運営を行っている、JR東日本グループ、株式会社JR東日本ステーションリテイリング代表取締役社長の鎌田由美子氏のお話を、先日伺う機会があった。

 電車を利用して通勤通学を行う多くの人々にとって、駅は毎日通る空間。そんな空間が、無味乾燥とした通過場所ではなく、人々の生活に彩りを添えるような場所にできれば・・・という思いで、ビジネスを展開する鎌田氏のお話を伺う中で、その具体的な取り組みのあちこちに、女性ならではの「こだわり」という名の「細やかな心配り」が散りばめられていることに気付かされる。

 ほかの駅ビルや百貨店とは一味違った店舗計画、商品展開、実地調査に基づき柔軟に変化するレイアウト、徹底したお客さまサービス、働くスタッフのモチベーションを上げるための配慮、商業施設だけでなく託児所やクリニックを設置して公共性も高める工夫――ビジネスのいたるところに心配りが行き届いているなと感心させられたが、特に印象的だったのは、トイレへのこだわりに関するお話だったので、先日、用事のついでに「エキュート品川」のトイレに足を運んでみた。

 駅構内のトイレといえば、やむをえないときには使うがお世辞にも長居したい空間とはいえない場所・・・というのが多くの人のイメージかもしれないが、「どうせ清掃で塩素の薬品くさくなるのなら、良いにおいを振りまいたほうがいいと思って」と、エキュート品川のトイレは、森林にいるような心地いいアロマオイルのにおいがいっぱいに広がっている。
 普通、駅のトイレの床のタイルは、「滑り止めの数の条件をクリアしているかどうか」といった規則上の観点のみで決められていたそうだが、「その条件以外はこちらの自由なのであれば、色を選びたかった」と、温かみのある配色の床になっている。
 壁紙も木目調で、洗面台の横には背の高い植物のプランターも置かれていて、リゾート風の居心地のよさがある。
 また、「そこが壁であっても鏡であっても、コストはあまり変わらないので、『エキュート』には鏡を多く使っています」という鎌田氏の言葉どおり、化粧直し用のスペースはもちろん、トイレ出入口には大きな鏡もあって、待ち合わせ前の全身チェックもバッチリだ。

 駅ビジネスの最大任務は、その基本業務の鉄道業において利用客の「安全」を守ることだが、鎌田氏は、「『安全』や『安心』でカバーすべき範囲はここからここまで、という設定はないと考えます」とした上で、「駅のトイレひとつも居心地のよい空間にすることが、安心につながっていくのではないでしょうか」と話していた。
 駅構内のトイレということを思わず忘れてしまう、ホッとできる空間を実現できたのも、こういった利用者の視点に立った上での徹底したこだわり=気遣いの積み重ねの結果に他ならない。

 いつだったか、安全安心とは何だろう、という話題の中で、
「『安全』っていうのはコンビニのおにぎりで、『安心』はお母さんのおにぎりみたいなもの」
という表現を耳にし、妙に納得したことがある。

 ではお父さんの握ったおにぎりはダメなのか?コンビニのおにぎりは本当に安全なのか?という議論は今回はさておくとして、「安心」できる社会を築いていくために、女性の妥協を許さぬ、細やかな気配り能力が欠かせないことは確かだろう。私も見習わなくては。
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