COLUMN

2009.10.01中間 真一

シリーズテーマ「働き方」#1「働き方」もチェンジのチャンス

 新政権スタートで、あちこちでさまざまな「チェンジ」が始まりました。その波にのって?、HRIのホームページも少しばかりチェンジです。研究員コラムは、月2回に更新頻度を上げ、社会や暮らしのテーマを設定し、それについて各スタッフが思い思いに綴ります。
 専門研究者のコラムというより、思いつきや日常の中で感じたままを綴ったものになるかと思います。読者のみなさんが、そんな中からHRIっぽさを見つけてくださるとよいのですが、どうなることやら。スタートとなるテーマは「働き方」、働いてきた日数がスタッフ最長というワケで私が露払いです。
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 アッと言う間に社会人歴30年に近づいている。スタートの82年当時を思い出すと、仕事場にはワープロもまだまだ、パソコンもようやく出始め、ネットなんてとんでもなかった。手書きの資料からは作成者の人柄が感じられた。褒められるのも怒鳴られるのも職場中に知れ渡った。仕事を終えて飲み屋に入ればカラオケは8トラック。この年のレコード大賞は細川たかし「北酒場」、新人賞はシブがき隊、タテもヨコも飲みニケーション全盛期。現在のオフィスやアフターファイブの景色との間には隔世の感がある。

 ところが、働き方はどうだろう? この30年、いやここ数十年にわたるサラリーマンの働き方は、基本的に変わっていないような気がする。もちろん、OA機器やインターネットによって仕事の仕方はいろいろ変わった。しかし、働き手(個人)と働く場(会社)の関係からみた「働き方」は、程度差はあれ依然として「仕事第一」、「滅私奉公」、「残業美徳」が多数派のままではなかろうか。

 もちろん、変わった部分もある。「非正規労働者」や「派遣社員」など、フルタイム正規従業員以外の働き方のオプションが増えた。バブル景気に湧いた頃、売り手市場の働き手は、働き方を自ら選択できるというメリットとしてこれを味わった。しかし一転、働きたくても働き口を探せない不景気となると、これは買い手に都合のいいオプションとなった。必要な時だけ、必要な人を、安価に調達できる手段というわけだ。年末年始の日比谷公園「年越し派遣村」の様子は、多くの目に映ったことだろう。GDPも貧困率も世界2位という日本社会、「これでいいのだ」とは言えない姿だ。昨年実施したHRIの大学生意識調査結果に表れた「ホープレスな気分」は、若者たちの素直な未来への心性と言えよう。

 私は、「働き方」も今回のチェンジの波に乗ったらいいと思っている。ちょうど今、景気低迷の苦境の中、働く場では残業規制が実感レベルで広がっている。これまでの生活残業が消えてピンチと言われているが、どうせなら、これをチャンスにチェンジしようと考えてはどうだろう。小さな子どものいる男性社員なら、残業できず稼ぎも減っている今のうちに、早く家に帰って家事や育児を手伝うクセをつけてしまってはどうだろう。忙しくて趣味が持てないとぼやいていたミドル世代は、おもしろいことを見つけてしまってはどうだろう。

 きっと、自分がやるべき仕事の量は、これから増えることはあっても減ることはないだろう。その時、すでに自分が「仕事第一」ではなく、「家庭第一」や「私生活第一」の旨みを味わってしまっていれば、ダラダラ残業なしで「いい仕事」をしようとする自らへのドライブがかかるはずだ。いい仕事は、いい報酬につながって、いい生き方からさらにいい仕事が生まれるはずだ。楽天主義が過ぎるだろうか? 世の中のしくみはチェンジを始めた。それを待つだけでなく、自らもチェンジする好機じゃないか。

 ここでハッと気付くことがある。「滅私奉公」の仕事の虫が多いはずの日本なのに、労働生産性の世界ランキングではいつも低い順位だ。一方、スカンジナビアやヨーロッパの連中は高位置を保っている。なぜだ? いつも、彼の地を訪ねて思うのだが、彼らは決して仕事第一の人生観を持ってはいない。そして仕事以外の生きる楽しみを知っている。どうせ仕事に大事な自分の時間を使うなら、いい仕事を効率よく気持ちよくという態度を感じることもある。じつは、「仕事の虫」とか「仕事が趣味」という仕事観こそが、日本人の労働生産性を落としている最大の原因かもしれない。生産性の高い仕事をするためには、仕事以外の楽しみづくりからと言ってしまったら叱られるだろうか。

 次回2週間後の書き手は、ワーク・ライフ・バランスを研究テーマとしてきた鷲尾さん。ポストバブル世代の彼女の意見も聞いてみたい。
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