COLUMN

2009.11.16田口 智博

シリーズテーマ「働き方」#4「残業ゼロ」に見るこれからの働き方

 前回のコラム『無遠慮のすすめ』では、仕事への取り組みにおいて、働き方だけでなく、振舞いも見直してみて組織内の風通しを良くしてはどうかという内容であった。
 確かに組織といっても、それを形づくっているのは個々の"人"である。したがって、働き方の制度や仕組みの改善は歓迎すべきことである一方、働く上での一人一人の意識や行動についても当然考えていく必要があるように思う。

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 景気が低迷している現在、企業の働く現場では「残業ゼロ」を掲げているところが少なくない。その動きは民間だけでなく、先月には行政で神奈川県が全国の都道府県で初めて、来年度からの本格的な"残業ゼロ革命"ということを打ち出している。神奈川県ではその取り組みを通して、「ワークライフバランスを実現し、職員が生き生きと働く活力ある県庁にしたい」とし、必ずしも人件費の削減が目的ではないとしている。
 官民を問わず職場での残業が減る方向へとシフトする中で、従来の働き方の見直しが、今後徐々に進んでいくように思われる。単純に考えると、こうした流れは個人がこれまで仕事に費やしていた時間が、自由な時間へと変わっていくことになる。「なかなか自分の時間を持つことができない」「1日の時間がもう少し長ければ良いのに・・・」など、これまで嘆いていた人にとっては、良い意味で転機となるに違いない。

 今年に入り、およそ2,000人の社員を対象に「"残業ゼロ"の分の時間は充実したと思いますか?」という質問が行われたあるアンケート調査では、「充実しています」との回答が69.9%に上っている。この結果は、7割近くの人が残業しなくなった時間を有意義に過ごせていると思っており、好ましい状況として受け止めることができる。
 その過ごし方の中身について見てみると、1位「自己啓発に充てている」(36.0%)、2位「家族とのふれあいの時間に」(25.5%)の2つが主な意見となっている。一方、「社内コミュニケーションの機会に」は4.5%に留まっており、少数意見であることがわかる。これはいかにも従来とは違った今日的な傾向ではないだろうか。

 以前在籍していた職場では、「昔は上司に書類の確認をお願いに行くと、ダメなところにチェックが入り、その書類は紙飛行機に姿かたちを変えて部署の中を飛んで戻ってきた。そんなやり取りを何度も繰り返して教えを受けつつ、お互いの意思疎通を図っていたものだ」という話を社長から伺った。当時は今とは時代が異なり、社内のコミュニケーションが業務時間の内外を問わず盛んに行われていた賜物として、そうした人間関係が築かれていたであろうと想像される。
 とりわけ、先のアンケート結果を踏まえて「社内コミュニケーション」について考えると、時間外がプライベート中心である現在は、上司、同僚や部下と時間をともにする職場内で、これまで以上に意思疎通を大切にした振舞いが求められてくるように感じる。

 働く場を取り巻く環境という広い意味では、最近企業の採用戦略において、雇用のミスマッチを防ぐために仕事の現場を開示するなどこれまでの手法の見直しが求められてきているという。ここでも意思の疎通を密にするという視点で、採用側と学生側が働く現実を共有するための取り組みが進められようとしている。

 「仕事と生活の調和」ということが言われている中で、その実現に向けてはあらためて働く上での人付き合いなど人とのつながりや関係性が大切になってくるに違いない。個人的には昔ながらのコミュニケーション手法も悪くないのではと思いつつ、これからは、人それぞれが自分なりの望む働き方につなげるために意識や行動を変えていくことも求められるであろう。

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 次回、本テーマ連載5回目の担当は中野さん。環境問題について豊富な見識を持つ中野さんが、「働き方」ということに対してはどのような意見を持っているか聞いてみたい。
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