COLUMN

2010.02.15田口 智博

シリーズテーマ「学び」#4自然との触れ合いを契機に

 私たちは知らず知らずのうちに、みずからの学ぶ目を曇らせてしまっていることがある。そのことに気づき、率直な感情で人に接したり、物事に向き合うことを心掛ければ、学べることは多い。それが前回のコラムからのサジェッションであった。
 多くの人がおのおのの経験に照らし合わせてみても、このことに対する異論はそうないに違いない。そうしたことを考えながら、同様にして、私たちは自然と接する機会を持つ中でも、そこから様々なことを教わり、そして多くのことを学べるのではないかと思う。

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 ちょうど昨年の11月下旬、京都市北部に位置する長刀坂国有林で行われた、森林整備のボランティア活動に参加する機会があった。
 そもそも、京都では森林が府域の実に75%(34万ha)を占め、温暖化や災害の防止、また景観の保全など多様な役割を担っている状況がある。実際、京都市内にいると、何気なく周囲を見渡すだけで山々の姿を間近に目にすることができる。まさにそこには、日頃から森林の恩恵にあずかっていることを肌で感じられるシチュエーションがある。

 しかし、そんな森林も最近では放置が進み、次第に荒れたエリアが増えて、林業関係者だけでは森林を守ることが困難になっているという。なかでも、マツ林は近年、京都のみならず各地において松くい虫などによる被害が広がり、その資源の減少が指摘されている。確かに、これまでに山間部に足を運び、マツ枯れの光景を目にしたことがある方も多いのではないだろうか。そのような背景もあって、今回参加した活動では、アカマツ林の再生を目指して広葉樹の伐採に取り組むこととなった。
 作業ではマツ林の再生に向けて、松かさから地面に落ちた種子が太陽の光を十分に浴びて成長できるように、晩秋でも青々と生い茂る常緑広葉樹を伐採し、光が通る空間づくりを行った。また、今回は時間の都合で実施できなかったが、本来はその後に落ち葉をかき、ここでも光が地表に十分届くよう、さらには落ち葉が堆積しすぎて土壌が栄養過多にならない対処を施すそうだ。ほんの一部分ではあるが、森林をどのように守っていったら良いかを学ぶ機会となった。

 ところで、京都の北部・宮津市には、日本三景の一つに数えられる「天橋立」がある。名称の由来は、人が逆さになって見ると、天に架かる橋のように見えることであることは一般的に知られている。そこでもマツ林の情景が印象的であるが、あの松には一本一本、病気や害虫からマツを守るため予防注射が施されているということを聞く。以前ある講演会において、京都府知事が「天橋立は自然と思ったら間違いで、京都府が白州やマツに手を入れて守っています。まさに環境と文化の融合です。そんな日本の文化というのが京都にはあると思い、それを大切にしていきたい」と話をされていた。自然と向き合い、学びながら景観の保全がなされていることがわかる。

 近頃は「自然との共生」というフレーズを耳にすることも増えているが、都市域では、そもそも身近に自然が失われてしまい、そう簡単に自然を意識できなくなっている現状がある。そういう意味で、今の私たちには、まずは観光・レジャーやボランティア活動など形は何であれ、自然と触れ合う機会を作ることが必要かもしれない。しかし、そうすることによって、自らの目で見て、体験することにつながり、そこで何かしら"学び"の契機となることが生まれてくるに違いない。

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 次回の担当は中野さん。今回のテーマも5番手へバトンタッチ。どのような「学び」が語られるかをお楽しみに。
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