COLUMN

2010.09.15中間 真一

シリーズ「ソーシャル・ニーズ」#1未来進行形のソーシャル・ニーズ~Joy of Lifeってどうだろう~

 前回のシリーズテーマ「予兆」とやや重なってしまうかもしれなせんが、未来研究所HRIとしては、このあたりをじっくり考えてもよいのではないかと思っています。そこで、今回のテーマは「ソーシャル・ニーズ」にします。
 この言葉、決して目先を変えるためにカタカナを使っているのではありません。「ソーシャル・ニーズの創造」というのは、オムロンの経営理念なのです。さらに、「ニーズって創るものなんだっけ???」と違和感を持たれる方もいるでしょう。じつは、そこがミソなんです。

 普通、ニーズというのは、顕在化している場合も潜在しているものであっても、どちらにしても今あるもの、今ある現象、今ある意見から見つけ出したり、感じ取ったりしようとすると考えますね。「今ある」という前提があるわけです。しかし、「創造」となると「今は無い」ものを創ろうとする営みとなるわけです。

 オムロンの経営理念を説明する時には、「社会課題を先取りしてとらえ、その解決に貢献する商品やサービスを世に先駆けて生み出すこと」と説明されています。過去の開発実績としては、通勤ラッシュ緩和や駅員さんのハードな作業問題の解消に貢献する自動改札システム商品などが典型的事例として挙げられます。このように、20世紀後半(つまり私の生まれ育ってきた時代そのもの)は、常に「効率の高さ」、「快適さ」、「モノの豊かさ」の発想力をグングン上げていけばOKだったわけです。今と較べれば、「ソーシャル・ニーズの創造」がしやすかったのかもしれません。

 それで私が思い出すのは、やはり1970年「人類の進歩と調和」をテーマにした大阪万博です。小学生だった私は、「出前一丁食べて、万国博へ♪」は叶いませんでしたが、夏休みの万博旅行はかなりよく覚えています。そこでは、何時間も暑い中で待って見た「月の石」よりも、サンヨー館やフジパンロボット館がおもしろく、今でも思い出せるほどです。
 サンヨー館には「人間洗濯機」(写真)と呼ばれるカプセル型の全自動風呂がありましたね。その他にも、「万能テレビ」や「フラワー・キッチン」(台所家電フルセット機器)なども、SF小説好きだった私にはとてもおもしろかったのです。ワイヤレス・テレフォン体験ができたのも大阪万博でした。これらは、まさに未来の社会・生活ニーズの創造の姿だったと言えるでしょう。

 さて、それではこれからの「ソーシャル・ニーズの創造」については、どのように考えればよいでしょう?世間では、誰もが口を揃えて「環境」、「健康」、「安全・安心」こそ時代のニーズと言っています。もちろん、これらは正しい指摘です。通底しているニーズは「サスティナビリティ」でしょう。様々な社会生活の場面に、サスティナビリティという観点からソーシャル・ニーズの創造可能性は大きいはずで、じつは私たちHRIではそのためのプログラムも開発中です。

 しかし、私はこれらのニーズの時制は「未来形」ではなく、「現在進行形」程度だと思うのです。ですから、「創造」というよりも「発掘」や「発見」ネタのように思えるのです。このような現在進行形の先にあるはずの、未来進行形のニーズにも想いをふくらませたいと思っています。これは、明らかに「発見」を超えた「感知」であり「創造」と言えるでしょう。
 環境問題、資源問題、健康問題、安全問題、私たちの社会生活の持続可能性を脅かすこれらの問題解決の先に生まれるソーシャル・ニーズ、楽天主義の私は「歓び」、「遊び」、「楽しみ」あたりだと狙いをつけています。「遊有自適」の生き方です。生きがいとも言えるでしょう"Joy of Life"と言ってもいいかもしれません。あるいは、サンデル教授のテーマのようになった「共通善」あたりも未来進行形にあてはまるかもしれません。

 今回のシリーズテーマでは、ぜひHRIの各研究スタッフの「ソーシャル・ニーズ論」を披露してもらい、読者のみなさんと共に、未来に進行する社会を考えていければと思います。

(写真は、三洋電機株式会社ウェブサイトから)
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