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働き方の未来

【大学生たちが想うキャリア ④】
インターンシップを通じて見えてくる「学生の自己理解と他者理解」

慶應義塾大学SFC研究所 キャリアリソースラボ 吉澤 康代
2013.11.20

● 「どこまで自分を出せばいいのですか?」という学生

学生のインターンシップ先を決めるのに、「その学生にとって必要な体験はどのようなことか」という視点で学生と面談をしている。根掘り葉掘り、これまでどのような体験をしてきたのか、どのようなことが得意で好きなのかなどを聞いていく。学生の話を聴きながら、この学生にとって新しい体験(今までしてこなかった体験、避けてきた体験も含めて)とはどのようなことか、その中で何とか頑張って乗り越えられる体験ができそうなインターンシップ先はどこかを模索する。

しかし、その時点で学生は充分な自己理解ができているわけではないし、またそれまでの体験について全てを話しているわけでもない。だから、根掘り葉掘り聞くのだが、私の方で上手く聞き出せない場合は、「自分自身のストレッチ」「多様な自分の可能性に気づく」というインターンシップのねらいにおいて、ミスマッチが生じてしまう。

面談に限らずだが、学生からは「どこまで自分を出せばいいのか分からない」と問われる。よく「TPOをわきまえるように」と言われるが、Time(時間)、Place(場所)、Occasion(場合)に応じた「態度」そのものがピンとこないようである。「自分を知ってもらうにはプライベートな話もしないと分かってもらえないと思うのだけれど、そういう話はインターンシップ先の職場でもしていいのでしょうか?」皆さんならなんと答えますか?

● インターンシップ事後授業は「キャリア研修」

インターンシップの授業は、事前授業(4~7月)、企業での実習(夏休みの3~4週間)、事後授業(9~12月)で構成されており、事後授業のコンテンツは「キャリア研修」そのものである。キャリア研修は、それまでのキャリアを振り返り、棚卸しをして整理し、今後のキャリアに向けてビジョン、ゴール、アクションプランを考えるというプロセスである。前段が自己理解の部分で、価値観、スキルコンピテンシー、性格タイプ、環境分析、ネットワーク分析などのツールを用いて行われる。

事後授業では、社会人向けのキャリア研修で使うツールと同じものを使って自己理解を進めている。数年後には社会に出る学生たちであり、インターンシップで職場体験をしていることから、あえて社会人向けと同じツールを使っている。

● 自己理解における学生と社会人の違い

学生(特に大学生)は、社会人と比べると制約が少なく、自分の好きな時に好きなことができる。やりたくないこと、やれないこと、やらなければならないことは避けて過ごせる。このような学生が自己理解のワークを行うと、価値観やエニアグラムで自分自身の本質的な特性がより明確に出る。社会人は、会社の経営理念や行動規範のすり込みや、責任や役割などからも「こうすべき」「こうあるべき」という価値観が表れやすい。

学生はまだそのようなインプリントや適応が少ない。そして、自分の本質的な特性を確認すると、「今の自分」に対する肯定感、納得感、腑に落ちた感じで満たされて終わってしまう。他の学生が自分と異なる価値観、性格タイプであることへの驚きや気づきにまで至らない。この点も社会人と大きく異なる。

スキルコンピテンシーでは、数少ない得意で動機付けにつながるものが出てくる。「得意でないスキルコンピテンシー」について、なぜ得意ではないのか?というディスカッションをすると、「そもそも使わないし、使う必要がないから」という結論である。社会人は、得意ではないけれど必要なスキルコンピテンシーは何とか習得しようという気に駆り立てられる。学生にはそこまでのインパクトがない。

● 自己理解から他者理解への展開

学生の「自己理解」で気をつけたいのは、今の自分に対する自己肯定感で終わってしまうことである。インターンシップのねらいは、自分を理解することから、他者を理解することへ、そして他者との違いから気づき、学びを得て、それを自分の新たな可能性や成長につなげていくことである。しかし、普段居心地のいい相手としか付き合わない学生にとって、自分と異なる他者に関心をもち、その他者といかに上手く協働作業するか、という発想は持ちにくい。授業でのグループワークなどもその場限りとなってしまう。

次回はこの課題への試みとして「敗者復活バリュー」「役割・期待ネットワーク」を紹介しながら、「学生のキャリアを支援するということ」について考えてみたいと思う。

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