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働き方の未来

【大学生たちが想うキャリア ⑤】
学生向け「自己理解ワーク」における試み

慶應義塾大学SFC研究所 キャリアリソースラボ 吉澤 康代
2014.01.01

●インターンシップの事後授業「自己理解のワーク」

自己理解のワークを行うと、学生は自分自身の本質的な特性が出やすい。インターンシップの事後授業では、「ライフキャリアチャート」と「バリューカード」を用いて価値観の棚卸しを行っている。前者はこれまでの経験を「ポジティブ体験とネガティブ体験」から整理するもので、後者は70枚のカード(価値観のキーワードが書いてある)から自分が大切にするトップ10を選び出すというものである。

ポジティブ体験に共通する価値観や要因を探り、トップ10のバリューカードと照らし合わせると、自分が大切にする価値観、自分をモチベートする要因が浮かび上がる。学生の納得感は非常に高い。ネガティブ体験では、辛く苦しい経験をどのように乗り越えていったのか、その時発揮した力に注目し、自分の強みと弱みの理解へとつなげていく。

●「自己理解のワーク」における学生の課題

社会人の場合、仕事やキャリアでの辛く苦しい状況は何とか乗り越えていかなければならない。自らの試行錯誤や他者の支援を得るなど、経験を重ねることでネガティブ体験の克服のバリエーションが増えていく。

学生のネガティブ体験からは、そこにいたるパターンが見えてくる。同じような状況でネガティブ体験に陥り、克服のバリエーションも少ない。それは社会人よりも制約の少ない世界におり、経験も少ないからである。

結果として、自分が大切にする価値観、モチベート要因を見つけ出し、納得感と腑に落ちた感じで満たされて終わってしまうのが、このワークにおける学生の課題である。

●これまで大切と思ってこなかった「バリュー(敗者復活バリュー)」を活かす

このような課題は某企業の若手(20代後半~30代前半)キャリア研修にも散見されていた。研修担当者から「バリューカードで大切ではないと捨てたカードを見直してみる」「役割・期待ネットワークから職場や周囲から期待されていることを考えてみる」という案が挙げられていた。

今年度インターンシップの事後授業でもこの二つを試みた。ライフキャリアチャートで、(1)ネガティブ体験に陥ってしまうパターンはないか、(2)捨てたバリューカードの中から「大切にしてもいいと思うカード(敗者復活バリュー)」を挙げてみる、(3)その価値観を大切にしていたら、ネガティブ体験の克服はどのように変わったか、といったことを考える時間を設けた。

すると「このバリューを大切にしていたら、もう少し違った乗り越え方ができたかも知れない」といように、ネガティブ体験を克服するアプローチに広がりが出てきた。そして、どのように自分を変化、成長させたらいいのかという発想にも結びついた。

&● 役割・期待ネットワーク

トップ10のバリューは「本質的」「思いこみ」「期待」に分けられる。本質的なバリューは自分の「やる気」「自分らしさ」を支えるもの、思いこみバリューは「~しなければならない」といった「べき論」によるもの、期待バリューは「~できたらいいな」という「願望」である。

社会人の場合、担う役割や責任から大切にする10のバリューが選び出されることがある。それらは「思いこみ」「期待」から選ばれるものである。社会人にとって、これらの役割、責任を脱ぎ捨て、自分が本当に大切にするバリューを見つけることは一苦労であり、重要なことである。

一方、学生は本質的なバリューを見つけやすいが、関係性における役割や期待といった発想が乏しい。そこで、自分を取り巻くネットワーク図を描き、「自分の役割」「自分に期待されていること」「自分が期待、希望する関係性」を考えるという作業を行った。

他者への関心が薄い場合、役割・期待ネットワークの登場人物が少なく、自分の役割や期待されていることを書き出すことが難しい。この作業を通じて「自分のバリューはこれだ!他はあまり関係ない」という姿勢ではなく、他者との関係性やそこでの役割・期待の大切さを感じることにつながったようである。

● 自己理解の目的は多様な可能性を知ること

数年前までは、学生はまだ自己が確立されておらず、ぼんやりとした自己理解に終わってしまうのではないかと思っていた。最近では「自分はこういう人間で、これでいいんだ」と収斂していくことを危惧している。そのため「自己理解のねらいは、自分の多様な可能性を知ること」と強調している。学生には多様な可能性が広がっており、選択肢を増やしていく時期である。効率的、効果的に最適な選択肢を選ぶ時期ではないし、そういうノウハウはないとも思うからである。

次回、最終回のコラムでは、学生のキャリア支援に携わって感じることをまとめようと思う。

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