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暮らしの未来

【自律社会としてのスウェーデン(1)】
スウェーデンの大人の能力は日本とともに世界一

三瓶恵子(ストックホルム在住)
2014.01.01

OECD(経済協力開発機構)の2012年の学力テストPISA(生徒の学習到達度調査。加盟国の義務教育段階にある15歳の生徒を対象に、読解力、数学的知識、科学的知識を調査する)の結果が非常に思わしくなかったスウェーデンでは、教育大臣が緊急記者会見を開いて学校教育改革案を提示するなど、大きな社会的関心を集めている。今回の結果も拍車をかけ、2014年9月の総選挙においては教育が大きな争点となるとも予測されている。野党は現政権下で教育レベルがどんどん落ちてしまっていることが政府の一番の弱点とみなしているのだ。ちなみにPISA2012ではスウェーデンでは世界一の下落率となり、OECDの平均以下の成績になってしまったのだった(数学では38位、読解力では36位、科学的知識では38位)。

 PISAの結果にスウェーデン社会が動揺する中、大人の能力調査では実はスウェーデンは日本やフィンランドと並んで「世界一」(調査に参加した23ヵ国中で一番)という結果が発表されている。これはやはりOECDによるもので、PIAAC(国際成人力調査。各国の成人を対象に、仕事や日常生活で必要とされる汎用的スキルのうち「読解力」、「数的思考力」、「ITを活用した問題解決能力」の3分野のスキルを直接測定するもの)と呼ばれる。16~65歳の大人を対象に2011年夏から2012年春にかけて行われた。

 今回参加した23か国(ロシアも参加したが、ロシアの結果については後で発表されることになっており今回の報告からは除外されている)のうちで、読解力は、1)日本、2)フィンランド、3)オランダ、4)スウェーデンの順、数的思考力は、1)日本、2)フィンランド、3)スウェーデン、4)オランダの順、ITを活用した問題解決能力は、1)スウェーデン、2)オランダ、3)フィンランド、4)ノルウェーの順(日本は10位)であった。

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(出所:国立教育政策研究所

ITを活用した問題解決能力として出された問題は、たとえば以下のようなものである。

<例:習熟度レベル3の課題>あなたは、仕事で会議室の予約申込みを処理します。
あなたが受信した3月16日分の申込みに関するメールを全て確認してください。
会議室予約システムを使い、これらの会議申込みを、可能な限り登録してください。
全ての申込みを処理したら、「次へ」をクリックして進んでください。
(このタスクは、会議室予約システムを使って、特定の日の予約申込みに対応するものである。タスクを正しく完了するためには、使える会議室の数と既存の予約の数等の複数の制約を考慮にいれなければならない。制約のため予約に応じられないという行き詰まりが存在する。行き詰まりを解消する方法は、リクエストのうちの1つに対して断りのメッセージを送信するという、新たな副次目標を設定することである。)

 メールのアプリケーションやWebのフォーマットに慣れていないと処理できないと思うのだが、スウェーデンの大人(調査参加者は約4500人)の多くはクリアできたのだという。もちろん年代層や社会的背景(スウェーデン人か移民か、学歴等)、性別によって結果が異なるという分析もされている(中央統計局レポート)。

 なにはともあれ、ITを使いこなすことが前提条件である社会になりつつあるスウェーデンで、大人の能力が優れていることがはっきり示されたことは喜ばしいが、PISAの結果と照らし合わせてみると、学校教育システムに難があるという結論になりはしないか、と複雑な思いがする。

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