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暮らしの未来

【自律社会としてのスウェーデン(5)】
急がば回れの教育改革

三瓶恵子(ストックホルム在住)
2014.05.01

 スウェーデンでは今年9月に4年ぶりの総選挙があり、8年間続いたラインフェルト首相(穏健党)率いる保守・中道政権が倒れるだろうと予測されている。選挙の最大の争点は「教育」だ。

 昨年秋に発表されたOECDの加盟国の生徒たちの学習到達度の比較調査(PISA)の結果で、スウェーデンが急落したことは以前にも触れた。今年に入ってから発表になったPISAの読解力の調査においてもスウェーデンの成績は非常に低く、目を覆いたくなるばかりだった。野党は、この凋落ぶりは政府のせいで学校間格差、社会格差が拡大したことにあると激しく追及している。与党は、問題の原因を作ったのは3期前の社民党政権だとしているが、かなり押され気味だ。

 私の目から見ると原因は、社会的な問題が学級の中に持ち込まれて、教師がまともに授業ができていないことにある。移民・難民が増え、学級の中にはろくにスウェーデン語ができない子どもたちが増えた。社民党政権時代に比較すると、授業についていけない子どもたちに対する支援(母国語教育を充実して保管教育を行ったり、クラスの中で補助教員をつける等)システムが弱くなった。教師にさく財源の負担が大きくなりすぎたためである。一方で、教員は負担が増すばかりなのに、給与はそれほど上がらず、教員のなり手がますます減っている。

 政府も8年間手をこまねいていたのではなく、たとえば、教員の質を上げるために、全教員が有資格者となるべく、現職教師に研修を施して資格が取れるような改革を導入したりした。以前は基礎学校低学年段階の教員資格しか持っていないものが中学年段階で教えたり、ある分野の資格(たとえばドイツ語)しか持っていない教員が、他の教科(たとえば英語)を教えるといったような措置が可能だったが、現在はほぼ不可能となっている。現職教師は研修のために授業を休講にせざるを得なくなり、「新しいことを学ぶためだったら仕方ないが、私の方が教員養成大学の『先生』よりできることをなぜ今更学びなおさねばならないのか?」と強く反発した。

 今年4月9日に発表になった、今後3年間の政府の政策を解説する性格を持つ、政府春予算案では、教育分野が最重要視され、以下のような目標が盛り込まれている。

・就学前学校(保育所・幼稚園)を強化する
・義務教育を10年制にする
・特に低学年段階の教育を強化する
・読み書き・算数について基礎学校1年生での成果判断の基準を導入する(=成績をつける)
・算数教育の時間を増加する
・夏の補習コースと学習支援を強化する
・新規に移民してきた生徒や、同様の支援を必要としている生徒への援助を強化する
・教師の教育以外の負担を減らし、クラス内の学習環境を整える
・基礎学校中学年段階(4年生~6年生)すべてで成績をつける
・高校段階の職業教育を発展させる
・教員養成大学の定員を増やす
・特殊教育担当教師および、数学、技術、自然科学の教師教育を受ける学生に対して特別補助金を支給する
・読書能力向上を図る
・校長の責任と教育的指導力を強化する
・奨学金額を引き上げる

 政府予算案に盛り込むには、かなり悠長な政策だと感じられるが、急がば回れの教育改革を図るのは正しく、論理的なスウェーデン人の指向にかなうものだろう。

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