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森山和道のインサイト・コラム(11)
時代の潮目

サイエンスライター 森山和道
2014.03.01

ソニーのPS4が日本国内で発売された。PlayStationで思い出すのは、PS2の頃だったろうか、多くのゲームが3Dになった時があった。その後、現実をスキャンして3Dモデルにして取り込む技術がXboxkinectによって劇的に安価になって到来した。そしていま、3D化の技術はさらに安くなろうとしている。Googleが「ProjectTango」と呼ばれるスマートフォンを開発者向けに公開したのだ。Tangoはスマートフォンサイズ、というかスマートフォンで、SLAMを可能にする技術だ。SLAMとは移動ロボット技術の一つで、ロボットが移動しながら周辺の環境地図を自動生成し、同時に自己位置を推定する技術である。ロボットの場合はカメラやレーザーレンジファインダーなどをセンサーとして使って行うことが多い。これがプロトタイプとはいえスマートフォン一つでできるようになってしまった。

もちろんロボットだけに関連がある技術ではない。建物内をスマートフォンを持ってまわるだけで屋内の3Dモデルができる。グーグルはこれをどう使うか、今後開発者たちに公開し、実際に開発してもらいながら探索していくつもりのようだ。屋内3Dモデルがグーグルマップやグーグルアースに統合されるだろうところまでは容易に想像出来る。問題はさらにその先である。コンピューター内に実世界の3Dモデルがバンバン取り込んだ先で何ができるのか。あれこれ空想してみると楽しい。

そのGoogleによる連続ロボットベンチャー買収については前回紹介したとおりだが、あのあと、さらに動きがあった。GoogleとEMS最大手のFoxconnとの提携がWallStreet Journalによって報道されたのである。Googleによるロボット企業の買収は、今後5年後10年後を見据えてのものだと考えていた人たちが少なくなかったが、一気に、もしかすると実用化までの時間ははるかに短いかもしれない----。急激にそんな雰囲気になってきた。

電子機器組み立てを主なターゲットにしているロボットといえば川田工業の双腕ロボット「NEXTAGE」だが、こちらの導入企業はグローリーや日立製作所を除いてあまり明らかにされていない。だがつい先頃、エアバス社のライン自動化研究のプラットフォームとして、NEXTAGEをオープンソースのミドルウェアで扱えるようにした「NEXATGEOPEN」が採用されて既に工場内でテストされていることがプレスリリースされた。ロボットが作業出来るように作業自体を標準化する研究と、実際にヒト型ロボットを使って作業する研究に用いられるという。なぜいまエアバスが研究プロジェクトを公にしたのか、狙いは明らかではない。だが、時代の潮目にさしかかっていることを感じさせるニュースだった。いま現場が徐々に、だがドラスティックに変わりつつある。

さて、国内では2月21日、「新ものづくり研究会」による報告書が発表された。「3Dプリンタから生まれる今後のものづくりのあり方を考察した」という報告書で、いわく、「2020年時点での経済波及効果は約21.8兆円と予想され、欧米が先行する現状を脱し、我が国の競争力強化につなげていく戦略的取組が不可欠となっています」という。PDFで全て閲覧できるのでのぞいてみた。

内容はこうだ。付加製造技術には「ものづくりプロセスの革新」「プロダクトの革新」という二つの側面があり、また安価な3Dプリンタには個人による主体的なものづくりの可能性がある。想定される経済波及効果は世界で21.8超円と大きい。だが、3Dモデルのためのソフトウェア、3Dモデルを出力するプリンター、いずれも海外製のものが使われており、日本が出遅れている感は否めないと指摘している。たとえば3Dプリンターの累積出荷台数で見ると、日本のシェアはわずか3%に過ぎないという。

付属の資料などはさすがによくまとまっているし、状況を俯瞰するには悪くないと思う。だが、全体的に出遅れ感が出てしまっていることは否めない。そうはいってもまず始めることが重要だということで研究会が開催されたのだろうと思うが、既に柔軟な物体に多色出力できる3Dプリンターが製品化されていたりコンクリート材料を立体出力して家をそのまま作ってしまおうという研究が行われている昨今だ。もう少し、危機感か、あるいは逆に国内外関係なく貪欲に技術開発して時代を変えようというような機運が感じられるものであってほしかった。

もっとも、企業や大学研究室では経済産業省によるあれこれとは無関係に、積極的な取り組みが行われているのだろう。今年(2014年)になって報じられたものでは東京農工大学の笹原弘之研究室によるアーク溶接利用の3次元造形技術や、株式会社サイフューズによるバイオ3Dプリンター、患者本人の細胞を使った人工血管作製技術などが面白い。米国企業の強烈なまでの攻めの姿勢と追い上げはすさまじいが、国内企業もがんばってほしい。いずれにしても時代は変わろうとしている。

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