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暮らしの未来

【自律社会としてのスウェーデン(16)】
政府予算案に見るスウェーデンの福祉政策

三瓶恵子(ストックホルム在住)
2015.05.01

4月15日、政府春予算案が発表された。スウェーデンの政府予算案には2種類あって、9月(4年ごとの選挙の年は10月)に発表される翌年度(1月から適用)の詳細な秋予算案と、3年にわたる中期的な経済政策を盛り込んで前年秋に発表された予算案を決められた枠内で修正する、4月に発表される春予算案だ。

 政府予算案なんて日本にいるときには目にしたこともなかったけれど、スウェーデンに来てからは結構まめにチェックするようになった。新聞でも詳細に内容が紹介されるが、だれでも政府のホームページからダウンロードして全部読むことができる。お役所言葉で書いていないせいもあるけれど、大変わかりやすく今後の政策を知ることができる。

 今回の予算案では、特に教育・福祉分野の強化が盛り込まれている。教育は昨年9月の選挙の一番の争点だった。どの政党もスウェーデンの学校の教育の質の向上を図らねばならないという共通認識の下で、いろいろな提案をしたのだった。概して、スウェーデンの政党の対立は、問題の理解が根本的に対立しているのではなく、なにを最初に為すべきかの優先順位の違いだ。今回の予算案の教育・福祉分野の主要なポイントは以下の通り。

 1、教師の数を増やす
 基礎学校(日本の小・中学校に相当)低学年段階(1年生~3年生)の教員の数を増やして1学級あたりの生徒数を減らす。そのための国庫補助を、学校運営の責任者であるコミューンに配布する。

 2、教員養成学部の定員を増やす
 教員養成大学の基礎学校教員コースの新入生の定員を毎年700人ずつ増やす。特殊教育担当教員コース定員も年間300人増やす。就学前学校教員コース定員を毎年800人増やす。
 1&2のために2019年までに4億5000万クローナ(約63億円)の予算を付ける。定員数でいうと6000人分の増加となる。

 3、高齢者ケアの職員を増やす
 2015年には高齢者ケアの職員増強のために10億クローナ(約140億円)を配賦する。2016年から2018年までは毎年20億クローナ(約280億円)ずつ増やす。

 4、失業保険支給額を増やす
 それまでの所得に基づいた失業保険支給の天井額を現在の1日当たりの最高支給額680クローナ(約9520円)を910クローナ(約1万2740円)に増やす。例えば月収2万5000クローナ(税込)の所得があった者は、失業後最初の100日間は80%相当の手当てを受けることができることになる。101日目以降は1日当たり760クローナ(約1万640円)に下がる。
 天井額の引き上げばかりでなく、下の方、つまり失業保険基礎額についても、現在の1日当たり320クローナ(約4480円)を365クローナ(約5110円)に引き上げる。また失業中でかつ疾病保険を受けている者についても疾病保険支給額を引き上げる。

 5、子ども用眼鏡の国庫補助
 8歳未満の児童に対しては眼鏡の補助金を支給している県(スウェーデンの医療の責任当局は県=ランスティング)が多いが、8歳以上を対象にしているところは少ない。政府は8歳から19歳までの子ども・若者が眼鏡を作る際に補助金を支給する。そのための予算として2016年に1億2000万クローナ(約16億8000万円)を配賦する。

 その他、ドメスティック・バイオレンスから逃れるための女性の駆け込み寺施設への国庫補助、出産ケアをよりスムーズにするための産婆教育の強化、移民受け入れ制度の整備、ひとり親への養育費補助額の引き上げ、なども盛り込まれている。8年ぶりの社会民主党政権(実際には環境党との連立マイノリティー内閣)が、福祉政策をどのように拡充していくのかを垣間見せる予算案だ。

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(政府春予算案)

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