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暮らしの未来

【自律社会としてのスウェーデン(19)】
ストックホルムで「貧乏人のための食料品店」準備中

三瓶恵子(ストックホルム在住)
2015.08.01

今年年末の開店を目指し、ストックホルムで「貧乏人のための食料品店」(ソーシャル・スーパーマーケット)が準備中だ。「ソーシャル・スーパーマーケット」は欧州全体では1000軒以上あるといわれるが、北欧にはまだみられないのでこれが北欧第一号店となる。イギリスでは1,2年前からソーシャル・スーパーマーケットができはじめているほか、オーストリアでは15年前から存在しているようだ。

イギリスの例(ヨークシャー地方にあるゴールドソープという町の「コミュニティ・ショップ」という店)で見ると、店で買い物ができるのは、その地域に住む会員に限られる。会員資格は、失業保険や年金など、何らかの福祉手当の給付を受けている者、とされる。店内で売られるものは賞味期限が近づいているものや、パッケージに瑕疵があるものなどで、大手流通業者からの提供を受ける。販売価格は通常の3割程度である。

ストックホルムのソーシャル・スーパーマーケットは、ストックホルム・スタッツミッション(Stadsmission)という社会的弱者支援組織で、商品の提供は食品流通大手企業であるアックス・フード(Axfood)等が協力する。スタッツミッションは19世紀半ばにできたキリスト教系の非営利団体で、セカンドハンド・ブティックやパン屋などの「社会事業」や学校を運営している。スタッツミッションのプレスリリースによれば、スウェーデンの場合は上記のイギリスの店とは異なって、一般人も買い物ができるらしいが、その場合はフルプライスとなるという。会員価格はフルプライスの3分の1くらいになるだそうだ。アックスフードはスーパーマーケット・チェーンであるヘムシェープ(Hemköp)や、ウィリース(Willys)を展開している。アックスフードのほかにも、コカ・コーラやネスレなど合計約10の食料品関係企業が商品を提供する予定とのことだ。スウェーデン革新庁(Vinnova)もプロジェクト補助金を出すという。

ソーシャル・スーパーマーケット計画の背景には、ただ単に社会的弱者を救おうという意図だけではなく、まだ十分に食べられる食物が年間62万2000トンも捨てられている現状をどうにかしたいという意図もある。お店をどこに作るかはまだ最終決定していないそうだが、多分ストックホルム市南のローグスヴェード(Rågsved)地区にできるようだ。

この発表とほとんど時期を同じくして、社会保険局から発表された報告書によれば、スウェーデンの子育て中の家庭の6分の1は、ヨーロッパの貧困基準を下回る貧困生活を余儀なくされている。児童手当及び住宅手当なしでは、その割合はなんと4分の1となるという。同レポートによれば、子なし家庭の可処分所得はこの5年間で非常に伸びているのに対し、子育て中の家庭、特にひとり親と子どもで構成される家庭の可処分所得が減っており、格差が拡大している。この背景には、給与が年々上昇しているのに対し、児童手当などの社会から支給される手当は10年以上据え置かれているということがある。

中央統計局およびEU統計によれば、スウェーデンはヨーロッパの中でもノルウェーに次いでリッチな生活をしている国民の割合の高い国である(グラフ1)一方、格差が広がり、底辺の方では貧乏ゾーンに陥る危険が徐々に増している。特に女性の割合が増加している(グラフ2)。

ソーシャル・スーパーマーケットはこのようなリスクゾーンにある人々に益するものと期待される。

グラフ1 良い物質的・経済的基盤を持つ人々の、全国民に対する割合(2013年、%)
kurasu019-1.png
(出所:スウェーデン中央統計局)

グラフ2 貧乏ゾーンに陥る危険を持つ人々の割合(2008~2013、%)
kurasu019-2.png

灰色実線:EU27 男性
灰色点線:スウェーデン男性
オレンジ色実線:EU27 女性
オレンジ色点線:スウェーデン女性
(出所:同上)

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