MONOLOGUE

2020.12.13

人間、社会を変える力の持ち主

HRIの研究テーマとして「テレワーク」を取り上げたのは90年代後半あたりだった。まだ通信ネットワーク技術は不十分だが、ワークライフバランス問題など、社会のニーズの兆しが顕れ始めていた。

それから四半世紀、通信技術やデバイス、サービスの充実は格段に進んだが、いくらテクノロジーからプッシュしても、社会課題からプッシュしても、「働き方改革」を声高に叫んでも、組織におけるワークスタイルは、相変わらずリアルに組織メンバーが集って働き、顧客と対面してサービスが提供される実空間が君臨し、進化し続けてきた。やはり、人間というのは「リアル」の価値という慣性力から逃れられなかった。

しかし今年に入った途端、世界中の多くの働く場で、組織メンバーの安全を守るために出社せずに、移動せずに、働くことが必要になった。私も慌ただしくテレワーク生活に入った。キッチンに、リビングに、屋根裏に、家族や個人の空間に、teamsだのzoomだの、画面という仕事場がポコポコと現れた。もちろん、実際にはまだ働く人の半数にも達していないテレワーク人口だ。テレワークという言葉で、一時帰休していたケースも多く、本当に「ニュー・ノーマル(新しい日常)」になるのかはわからない。けれど、確実に動いた。

これまで、どれだけ社会のニーズやテクノロジーなど、人間が考えたことからプッシュしても動かなかったことなのに、世界中が一気に動いた。何がそうさせたのか?「自然界」だ。自然界は、容易に人間界を動かせることを改めて思い知らされた。

東京では、5月の緊急事態宣言で初めて転出超過となり、10月の転出者数も前年同月比で増えたのは都道府県で東京だけだった。特に都心部での流出が目立っている。一方、ある地方国立大学の知人の話では、今年の編入試験の応募者数が急増したそうだ。大都市の私大ブランドより、地元大学の正味価値を選択し直した若い人たちの行動だ。コロナ禍の不安と、テレコミュニケーションの常態化で、「疎開by コロナ」、「地元回帰by コロナ」、人々の分散志向は極めて合理的で自然な流れだ。

まだまだ、かなりの人たちは「アフターコロナ」で元に戻ることを期待している。これから数年、そういうOLDとNEW、BEFOREとAFTERの往ったり来たりが続くのだろう。しかし、その振幅を収束させながら、自律分散型の社会がリアルに形作られるのだろうと感じる。まだまだ、新たな自律社会へのカオスは続きそうだ。痛みもかなりありそうだ。しかし、今この進行中の社会は、逃してはならない近未来社会研究フィールドだ。いまという時代と社会、SINIC理論の未来社会研究のプライムタイムを、もう少し歯を食いしばってみる価値はありそうだ。

ヒューマンルネッサンス研究所
所長 中間 真一
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