MONOLOGUE

2021.01.01

みなさま、明けましておめでとうございます。
本年も、よろしくお願いいたします。

「早く、コロナの前の当たり前の暮らしに戻れますように」。初詣でも、いの一番にこう願いたくなる新年です。しかし、本当にコロナ以前に「戻る」ことが、最善の道筋なのだろうか?ということも同時に考えるようになりました。世界を覆うコロナ禍が去って行くのを待つのでなく、くぐり抜けて、新しい価値、新しい社会、新世界、未来をひらく好機ではないかと。

そう、暗黒のヨーロッパ中世が、ペスト大流行の惨憺たる社会を経た後に、ルネッサンスを花開かせ、人間らしい芸術、近代科学が勃興する時代に向かったように、回復でなく創造への道という選択も、今の時代だからこそ考えられる価値があるのではないかと。

そんなことを思いつつ、年末に寄った洋服屋さんでの立ち話しを紹介します。私は、たいてい待っているだけで手持ち無沙汰なので、空いているスタッフの人がいると話し相手をしてくれたりします。
洋服屋の彼:「中間さん、もう政治家とかの言うことって、うんざりですよね」
(ああ、またコロナ対策の話しかと思いきや、意外にも)
彼:「僕ね、西野亮廣さんを、前からすごくリスペクトしてるんですよ。『えんとつ町のプペル』の映画、今度の休みに必ず観に行きます。奥さんにも、昔からずっと言い続けてたので、早く観に行ってこいって言われたし」
(ヒートアップ気味ですが、私には話しの先が見えません)

その後の彼の話しは、こんな流れでした。西野さんはお笑い芸人だが、じつは絵本作家になる夢を諦めきれなかった。だから「絵本」を作り始めた。周りから「バカげている」「ムダだ」「失礼だ」「ふざけんな」とボコボコに叩かれても諦めず、とにかく、夢と意志を貫き続けた結果が今回の映画だ。傍観者が無謀な挑戦を笑ったり、揶揄したりするのは容易いこと。だけど、夢を見るだけじゃなく、やっちゃうのは、それ相当の覚悟が必要だから普通は諦める。これまでの常識が変わるコロナの先の世の中ならば、こういうチャレンジが、もっと「あり」になる世の中にならないだろうか?というものでした。

そして、話しはさらに続きました。
彼:「じつは、僕にも夢があるんですよ。服って、売るんじゃなくて、支えてくれる人、支えたい人たちと着たいんですよ。中間さんなら言っても大丈夫かなぁ?」
私:「それって、すごいことだよ。向こうのビルにあるようなファストファッションでは到底できないことだよね。生き方をデザインしている感じの、この店の服だから、なおさらわかるね。生き方に共感できる人たちと服を通じてコミュニティをつくるみたいなことだよね。パタゴニアとか、スノーピークとかと、使う手段や材料は違うけど似ている感じもするね」
彼:「まさにそう!お店っていうより、仲閒のたまり場みたいなイメージなんです。そこでの僕は、服という商品を販売するんじゃなくて、その人の生き方に、何か役に立てることを服を通じてするって感じで」
私:「その人が、より生きやすくなる手助けとなる服って感じ?収益が目的で服を売るんじゃないってことに徹するんだよね?コミュニティのお世話係みたいなさ。服って人を包む衣だしね。なんだか、ケアの仕事みたいにも思えるね」
こんな調子で、店頭で興奮気味に語る彼の話しに、ちょっかいを出しながら、私はたのもしい未来を覗くかのような気分を楽しみました。

その店は、ドーナッツ状の無垢の木のテーブル上と、その外側の壁沿いに服が並べられています。私が初めてこの店に入った時「あっ、いいな」と感じたのは、その中心、フロアのど真ん中に直し用のミシンがデンと置かれて使われていることでした。なんとなく、お客さんを眺めながら服をつくる感じがしたのです。そんな想いもあったので、「このお店のつくりって、まさに君の夢を叶えられるつくりだよね。360°見渡して、その人の生き方に合わせて生地で包んで、ミシンで縫えるようになってる。つくるって感じがするじゃない?」と言ってみました。

彼は、途端にすごくうれしそうな表情になりました。と同時に、彼の(本当の)お客さんが来られたので、「中間さん、今年も僕の無駄な話を聞いていただき、ありがとうございました」と言って、彼の「本務」(接客)に戻りました。

このコロナ禍でアパレル業界はかなり厳しいはずです。その中で、服を売って生活の糧を得ている彼が、「服は売り物じゃない」とか「生き方の共感コミュニティ」とか、私と熱くなって店内で語り合っている情景は非常識でしょう。「なに、バカなこと言ってるんだ」と叩き潰されるか、笑い飛ばされるのが関の山でしょうません。しかし、そういう想いをもって、夢をもって、よい服を創ろうと働いている若者がいること、これは新しい経済、新しい社会、新しい世界、新しい地球の予兆じゃないかと感じるひとときでした。そして、MOTで皆川明さんのミナ ペルホネンを観に行った時と同じような気分だと思い出し、反芻してニンマリしてしまいました。

世の中、変わるな。まだまだ捨てたもんじゃない。新しい仲閒、新しい社会、新しい世界を見つけ、未来を創る一年にしていきます。

ヒューマンルネッサンス研究所
所長 中間 真一
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