MONOLOGUE

2021.02.22

EXPO2025 大阪万博が未来を拓く

 半世紀前の1970年、EXPO70大阪万博が開かれた。私は小学5年だった。時まさに高度経済成長のクライマックス、6年前に東京五輪、2年前にはGNPがアメリカに次ぐ世界第二位となる破竹の勢い、とにかく日本中がイケイケムードだったし、街の景色、暮らしの姿がガラガラ変わっていたことは、子どもながらに思い出せる。

 圧倒的人気パビリオンはアメリカ館、なんてったって前年に世界初の有人月面着陸を果たしたアポロ11号のクルーが持ち帰った門外不出の「月の石」、炎天下に3~4時間並んで拝めた「黒い岩」だったが宇宙を感じた。今でも一番に思い出せるのは、ロボットを集めていたフジパン・ロボット館、日立館のシミュレーター、海外のパビリオンも歴史や文化をアピールしていて、まだまだ海外旅行は高嶺の花だった時代にあって、さながら世界一周旅行の場であった。約半年間の会期中の来場者の数は6,400万人だそうだから、当時の日本の人口の半数を超えている計算になる。

 この万博のスローガンは「人類の進歩と調和」。万博の基本理念の草案を書き上げたのは構想立案の副委員長だった京都学派の桑原武夫さん、口角泡を飛ばす議論の末の着地点への考え方は、人類の進歩の肯定と期待、一方、現実を直視して見えてくる不調和の存在、それをアウフヘーベンして、人類の智恵で未来を拓こうというメッセージだったそうだ。イケイケの時代にあって、文明の光だけでなく陰の解消を強く意識していたらしい。そうして、EXPO70はその後の未来社会を拓いた。

 あれから半世紀、EXPO2025大阪万博が近づいてきた。私は、友人たちが企画に関わっているからというわけでなく、けっこう期待して楽しみにしている。工業社会のクライマックスの前回に対して、今回は工業社会からのパラダイム・シフト、離陸の時期の開催になる。テーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」、未来社会の展覧会でなく、未来社会の実験場という、People’s Living Labというコンセプトにも好感を持って期待している。未来社会デザインのプラットフォームが大阪万博ってことなのだと思える。

 ところで、先日(2/19)のNHKのEテレ「デザイン トークス+」という番組がおもしろかった。テーマは「未来Ⅱ」。最近、私も注目している未来派の一人、豊田啓介さんがゲスト。彼は、最近「建築情報学会」なるものを立ち上げた。デジタルワールドがフィジカルワールドに融け込む未来を先取りしている人。そのために重要なのが「コモン・グラウンド」(モノ(フィジカル)と情報(デジタル)が重なる共有基盤)で、その価値を大阪万博で実験しようとしている。会場計画策定のアドバイザーを担った彼は「非中心」、「離散型」をコンセプトに据え、「ボロノイ(Voronoi)図」の発想を取り込もうとしている。とてもおもしろい。これは、自律的なアルゴリズムが、全体を最適に調整するものだからだ。

 まさに、これってSINIC理論の「最適化社会」から「自律社会」への「社会の自律化」の構図じゃないか!と思っている。信じている。やっぱり、フロントを走っている人たちには「自律社会」が見え始めているようだ。そうなると、2025年の大阪万博は「自律社会」のデザイン、実験場になるだろう。これはおもしろい。そして、なんとこの番組では、先日大盛況だったHRIのウェビナーゲスト、市原えつこさんの「サイバー神輿」や「デジタルシャーマン」の作品も紹介されていた。やっぱり来るね。自律社会へのプロセスは厳しい道のりもあるだろうけれど、未来は決して悲観すべきものではないよ。
※参考情報:Eテレ「デザイン トークス+」再放送(2/24)あるようです。

ヒューマンルネッサンス研究所 所長 中間 真一
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