MONOLOGUE

2021.09.18

未来を考えるための生活価値観


 人の生活を考えるための3つの「かん」、最終回は「価値観」です。人という生きものの身体、こころを動かしているのは何か?そう考えていると、価値観にたどりついてしまうのです。じつは私、ヒューマンルネッサンス研究所創設時、「価値観とヒューマンビヘイビア」という大風呂敷を広げてプロジェクト提案しました。「古今東西の価値観のデータベースをつくれば、人間行動の未来はわかる」という、アホでムダなテーマですが、当時はBoke-mon(ボケモン) GO! がありました。

 バブリーと言われようが、なんと言われようが、理想を目がけて突進するドンキホーテ型のテーマが成立していたのです。これを、懐かしい話題にしちゃいけないですが。

 さて、価値観話題で最近「へぇ!」を感じた話題とは、とあるメルマガ記事で紹介されていて読んだ、イギリス三大紙の一つ ”Guardian” ウェブ版の記事です。見出しは ’No point in anything else’: Gen Z members flock to climate careers 、「他に何があるのだろうか ―Z世代は、気候変動のキャリアに群がる」という感じかと思います。つまり、気候変動による災厄が日常的な脅威となっている中、サステイナビリティに関係する専攻を大学で選んだり、職業として選んだりするZ世代の若い連中が、世界で急増しているという内容です。

 記事では、ボストンのコンサルタント、テキサスの再生農業の農場で働きながら、哲学や文学も含めた統合的に人と環境の関係修復を研究する学生のコメントや、若者のサステイナビリティ関連の進路を支援するまた、そういう流れを促すCivilian Climate Corpsというアメリカの団体が成果を挙げている紹介もありました。そして、USC(南カリフォルニア大学)の約2/3の学生は、キャンパス内のサステイナビリティに強い関心を持ち、その中の半数は、毎週なんらかの実践までしているという調査結果も紹介されており、30年くらい前の色眼鏡で見ていた私のUSCへの見方も少し変わりました。日本の大学生も、同様であることを期待します。

 小学校時代、友人と「公害を写す会」という新たなクラブをつくって楽しんだ私も、高校入学時あたりまでは、環境化学を専攻して、その道に進もうと思ったこともありました。しかし、当時のこの分野は、かなり地味だし就職先も限られるニッチな領域だろう、さらには勉強や研究も大変そうだと諦めていたのです。

 私の意志の弱さは確かですが、ここには「カネ」という経済価値最優先だったり、「消費は愉しい」という価値観があったのも事実です。大学の専攻や、職業選択となると、少しばかりの正義感ではなく、生活していくための価値観で判断しなくてはと思っていたのです。だから、いまだに「気候変動は大きな社会課題だけど、やっぱり経済成長もさせなくちゃ」なんて、物知り顔で語る経済成長イケイケ世代と、今、兆しをつくっている、おだやかなZ世代の価値観や行動の間には、はっきり違いがあるのだろうと、期待を持って感じているわけです。未来の話しは、未来の担い手に任せた方がよいです。彼らは、前世代から押しつけられた課題解決でなく、自分たちの価値観に基づいた豊かな未来社会をつくりたいとも思っているようですから。

 価値観をトコトン突き詰めてたどり「真善美」の領域まで行くと、これはもう「不易」の領域でしょう。しかし、今という時代や風土ならではの価値観もあるわけです。今、成熟期を迎えている私たちは、やはり「モノ」から「こころ」へ、「個人」から「集団」へという大きな価値観シフトの渦中にあるとSINIC理論では予測しています。「こころ」と「集団」の価値観に基づいた人間の行動、そして地球人としての生き方、未来を創る可能性は、まだまだ捨てたもんじゃなさそうです。

最後に一つ。アリストテレスは「ひとは建築することによって大工となり、琴を弾ずることによって琴弾きになる」と言っています。価値観が行動を決めるだけではないですね。行動を続けることがその人の「人となり」をつくる。行動から始まる生活価値観も、やはり大事なことでしょう。今朝、鷲田先生が気づかせてくれました。

ヒューマンルネッサンス研究所
所長 中間 真一

GUARDIAN記事:
https://www.theguardian.com/environment/2021/sep/06/gen-z-climate-change-careers-jobs
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