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【コラム】 Can you Do it Yourself?
澤田 美奈子

 部屋を片付けていたら、クローゼットの奥から手作りの洋服が出てきた。そういえば中高時代、自分で服を作ろうとしていた時代があった。思い通りの服がほしかった、でも店では売っていなかった、もしくはあっても高価で手が届かなかった、といったことがきっかけだったと思う。改めて見ると、デザインも縫製も外で着られるレベルではないのだが、自分なりに一生懸命作っていたことを思い出すと、処分もするのもためらわれる。

 学校には必ず、家庭科と技術の授業がある。手を動かして何かをつくる、というところでは、美術や図画工作の授業があるので、なぜそれとは別に技術家庭科があるのか当時は疑問だった。だが振り返ってみると、自己表現の機会や美的感覚の涵養のための美術や図画工作と、衣服や家具といった生活用品を自分の手でつくるプラグマティックな技術家庭科は、それぞれに役割が異なるのだろう。

 さて、手作りの洋服との久しぶりの邂逅を果たし、今、私が高校生だったらどうするだろう?、と考えた。今なら良いものを安く売っている小売店がたくさんある。まずはそこに出かけるだろう。店頭になかったら、ネットで探すという手がある。東京に住んでいなかったら、まず先にネットが来るかもしれない。自分でつくるという選択肢はたぶん、ずっと後に来るか、あるいはそんな選択肢自体存在しない可能性だってある。
 そう考えてみると、”買えば済む“が当たり前になった時代において、家庭科や技術の時間は、決してそれは当たり前ではないのだということを思い出させるための機会として、今後より大事な意味を帯びてくるように思える。


 自分の手でモノをつくる。これは海外ではDiYと呼ばれるカルチャーだ。DiYの対象としてまずイメージされるのは、いわゆる日曜大工で、ホームセンターで材料を買ってきて、自分の家仕様にあつらえた家具や、家の壊れた箇所の修理を行う、といった作業を思い浮かべる。
 ただもう少し深くDiYの歴史を紐解いてみると、DiYはモノだけでなく、文化の創造にも及んでいたことがわかる。たとえば音楽。イギリスにおけるDiY文化を紹介した本『DiY CULTURE-Party & Protest in Nineties Britain―』(George McKay, 1998)によると、70年代後半、商業化の波に飲まれ反骨精神を失いつつあったロックンロールに反旗を翻した若者たちがつくりあげたのが、パンクミュージックのそもそもの発祥らしい。彼らは音楽だけでなく、自分の音楽を売り出すためのレーベルや、音楽性にふさわしいファッションブランドをも“自作”した。シド・ヴィシャスやヴィヴィアン・ウエストウッドといった、今もなお若者から熱烈な支持を受ける時代のアイコンたちも、そのルーツには強力なDiY精神があったというわけだ。


 さて、話題を再び現在に戻すと、今再びDiYがオモシロい時代に突入している。以前も 当コラムで取り上げたが、かつてから存在していた電子工作文化に情報技術が加わることで、さらに高度なモノづくりが可能になってきている。

116.jpg 高性能の工作機械が比較的安価になってきたことも、ムーブメントに拍車をかける。右の写真は、業者に特注してつくったHRIの表札、というわけではなく、以前、慶応義塾大学大学院メディアデザイン研究科の工作室にお邪魔した際、学生さんに即興で製作してもらった見本品である。弊社ロゴをソフトウェアで認識し、コンピュータにつながったレーザーカッターが、厚みのあるプラスチックの板をプログラムに従ってくり抜いていく。ものの数分で、こちらの思い通りのカタチに見事に仕上げられた。こうしたオモシロい道具が身近にあれば、学生たちの創造力もかき立てられるというものだろう。

 実はこうした工作機械の導入によるDiY革命が、インドのような新興国でも起こりつつあるらしい。ガスも水道も舗装道路もない農村地帯の人々が、“個人的なモノづくり”運動を世界に展開しようとしているMITから提供されたパソコンや3Dプリンター等を使って、自転車を改造した発電機やWi-Fiアンテナ、太陽光発電による調理器具をつくっている、と言うのである。
 自分が心からほしいモノを、ほしいカタチで、自分の手で、ほしいときに、ほしいだけ、つくる。そんな、新しいけれども根源的なモノづくりのありかた、そしてそんなモノと作り手=使い手の文化が広がっていけば、″買えば済む“社会の限界を迎えつつある先進諸国とはまた異なった様相の豊かさを、彼らは実現していくに違いない。


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