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てら子屋コラム

誤ったメッセージ
−フランスの「校則違反対策」ニュースから−
鷲尾 梓

 「車の運転と同様に学校にもルールが必要だ」。フランス中部リヨン郊外の小学校で、交通違反と同様の減点方式で児童の素行を採点し、持ち点が「ゼロ」になると給食を取り上げる制度が導入され、議論を呼んだ。
 
 この制度は、生徒全員に持ち点6点を与え、「列を乱した場合は減点1」「食べかすを投げ捨てたら減点3」というように、約15の規則に違反すると減点されるというもの。持ち点が残り3点の時点で保護者が呼び出されて警告を受け、ゼロになると数日間から一週間、罰として給食をもらえなくなり、その後は再び持ち点が6点に戻る。児童保護者評議連合が「これは教育でなくスパルタ訓練だ」と抗議をしたが、中止には至らず実施されているという。

 このニュースにふれて、「何かがおかしい」と感じた人は少なくないだろう。問題は、学校側が、校則違反をする生徒と向き合うことを放棄してしまっていることだ。なぜ校則を守らなければならないのかを話し合い、なぜ守れないのかを分析し、守れるようにするにはどうすればよいのか、あるいは、その校則自体を見直す必要があるのかを問い直す。あるべきそのプロセスを飛ばして、校則違反の問題を一方的な「懲罰」によって解決をしようとしていることだ。

 さらに「点数制」の導入は、生徒に対する「点数が減るから校則を守らなければならない」というメッセージになる。それは、「減点されなければよい、ばれなければ良い」あるいは、「校則を守らずに、給食が食べられなくても、自分個人の問題だ」という、個人主義的で自分本位な思考につながっても不思議ではない。校則違反をした生徒だけでなく、それを見ている生徒も、「ルールとは、秩序とはそういうもの」という認識を共有することになる。
 
 点数制の校則違反対策は結果的に、「校則を守らせる」という目の前の問題にとらわれて、もっと大切な、根幹に関わる部分で誤ったメッセージを発してしまっているのではないだろうか。
 
 フランスのこのニュースを、私たちは人事と笑えない。学校の実績を上げるため、学校側が受験料を負担して成績優秀な生徒に有名大学を複数受験させる「水増し」の問題や、学力テストの成績を基準の一つとする学校予算配分を背景としたテストの不正など、問題の本質が見失われ、生徒に致命的に誤ったメッセージを発している場面が多いことが気がかりだ。

 学校で何を教えるかという問題と同様、あるいはそれ以上に、学校という場を取り巻く環境が、日々、直接的・間接的に生徒にどのようなメッセージを発しているかということに、私たちはもっと慎重で、敏感である必要があるのではないだろうか。

【参考】
◆「校則違反で減点、持ち点失うと給食なし 仏の小学校」(2007年9月21日 朝日新聞)


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