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チャータースクール~ユニークな学びの場をどう評価するか~
鷲尾 梓

31.jpg もしあなたが自由に学校を作ることを許されたとしたら、どんな学校をつくるだろうか。
アメリカでは、1990年代にそんな試みが始まってから、約15年が経とうとしている。
「チャータースクール制度」という試みである。

 「チャータースクール」とは、「チャーター(特別認可)」を受けて開校する、新しいタイプの公立学校のことである。教師や父母など、学校の開設を希望する個人や団体がプランを準備し、チャーター交付権限を持つ機関(学区/州教委、公立大学など。州によって規定が異なる)の審査をパスすると、自分たちの手で学校を開校・運営することができる。公立学校であるため、生徒数に応じた運営資金が州から支給される一方で、教育成果に対する責任を負い、もし成果が出せない場合はチャーターが取り消されるというしくみになっている。現在全米には約3,400校のチャータースクールがあり、100万人近くの生徒が学んでいる(※1)。

 実際にチャータースクールを訪れてみると、一校一校がユニークで、実に多様であることに驚かされる。基礎教育と生活指導を徹底して行う学校もあれば、教科教育はほとんど行わず、プロジェクト・ベースの学習を進める学校もある。地元企業へのインターンシップに力を入れ、在学中からビジネスを経験する機会を設けている学校もある。本格的な機器を備え、音楽に関する知識や技術の習得を学びの中心に据えている学校では、生徒たちが手がけたCDをプレゼントされた。

 少し乱暴な言い方になるが、チャータースクールは全米を挙げての「実験」のようなものではないかと思う。その背景には、人種や所得階層の住み分けによる教育条件の地域間格差、基礎学力の低下、学校の荒廃(薬物、暴力、ドロップアウト)などが深刻化する中、国として「学校はどうあるべきか」という問いに対する確固とした答えを見出すことができないという状況があった。

 では、この「実験」は成功したのだろうか。
 
 この問いに対する明確な答えは、未だ得られていない。最もわかりやすい指標である「学力」についても、チャータースクールが通常の公立学校に勝るとする結果、劣るとする結果の両方が存在し、チャータースクール擁護者と反対者の間で激しい論争を呼んでいる(※2)。両者の比較にあたってどのようなデータを用いるか、どのような分析方法を採るかによっても結果が異なるため、結論が一致しないのである。この議論はさらに、人種や所得階層などのバックグラウンドの異なる生徒をどのように比較するのか、ある一時期の学力のみを問題にするのではなく、過去の学力からの伸びを考慮すべきではないのか、といった問題へと発展し、複雑な様相を呈している。

 しかし、私はこの論争こそが、チャータースクールという「実験」からうまれたひとつの成果なのではないかと思う。チャータースクールを評価するということを通して、「学びの成果をどう評価するか」という問題が表面化し、真剣に向き合うべき問題として認識されつつあるからである。この論争を背景として、「学力」に関わるより緻密なデータや、洗練された分析方法が模索されている。さらに、「学力テスト」では測定できない「学び」の側面を評価すべきだとして、テストの得点以外にもさまざまな指標が提案され始めている。

 ミネソタ州にあるチャータースクール協同組合「エドビジョン」で、新たな評価指標の開発を手がけているロン・ニューエル氏は、「評価の最終的な目的は、学校間の比較ではない」と語る。どの学校でどのような教育プログラムが実施され、どのような成果が得られているのか。それを丁寧に読み取ることで、プログラムの何が有効なのかを探り、さらなる改善に結びつけることこそが、評価を行う本当のねらいなのだ。

 この考え方に賛同するいくつかの公立学校が、既に彼の実施する評価研究に参加しているという。「従来の公立学校の協力を得るのは容易ではないが、これからも働きかけていくつもりだ」という彼の前向きな姿勢と信念には、頭が下がる思いがした。彼の頭の中には「チャータースクールvs.従来の公立学校」という対立構造はなかった。ただ、「どうすればよりよい学びの場が作れるか」という問題意識だけがあった。

 チャータースクールという壮大な「実験」は本来、「『学校』はどうあるべきか」という問いに対する答えを問うものだったはずである。チャータースクール、従来の公立学校の枠組みを超えて、「よりよい学びの場」を追求できたとき、はじめてこの「実験」が成功したかどうかの答えが出るのではないだろうか。

<参考文献>
※1 The Center for Education Reform
※2 Carnoy, M., Jacobsen, R., Mishel, L., & Rothstein R. (2005) The Charter School Dust-Up: Examining the Evidence of Enrollment and Achievement. Wahington, D. C.: Economic Policy Institute & New York: Teachers College Press. ほか


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