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てら子屋コラム

まじまじと観ること
~夏の「てら子屋」の舞台から~
中間 真一

57.jpg ひさしぶりに、生き物をまじまじと観ました。チョウやいろいろな昆虫を丸一日、サルを半日、自らの眼で、双眼鏡で、顕微鏡で、そして頭や心の中でも、いろいろな見方をしてみました。猛暑の夏の「てら子屋」ワークショップ・プログラムは、そんな「まじまじ観ること」からスタートしました。

 今夏の「てら子屋」のテーマは、「人間って、どこから来たんだろう?」です。小中学生向けの体験型プログラムとしては、ちょっと難しいテーマ。しかし、ぜひとも「てら子屋」で取り上げたいテーマでした。私たち人間を、ヒトという動物から見直してみることが大切なのではないかと感じていたからです。案の定、プログラムを具体化しようとした途端に難問山積。本物、本人、本場、「てら子屋三本主義」を貫いて、「進化論」のど真ん中を目がけていくのは、なかなか難しいのです。

 そこで、「進化」という意味の気配を、心地よいけれど存在感もある通奏低音のように響かせながら、子どもたちには「本場」で「本物」を観て、「本人」から聴き出せるようなプログラムづくりへと舵を取り直しました。「多様性」、「共通性」、「分化」など、いま生きている動物をじっくり観察することからでも、「人間」という生き物をふり返るヒントはたくさん見つかると思ったからです。そして、全3回シリーズのプログラム企画ができあがりました。入口は「ムシ」、子どもたちが平気で見たり触ったりできるし、ヒトからは遠そうなのに、子どもたちには身近だからです。そこから「サル」、最終回には「人間」にたどり着くというプログラムです。

 ところで、ムシもサルもヒトも「本物」に接するための方法は、いろいろあります。「本人」として素晴らしい研究者の方々を探して協力をお願いすることもできます。しかし、「本場」はどうでしょう?ムシの本場?サルの本場?ヒトの本場???そんなことを考えながら、たどり着いたのはなんと「動物園」でした。いやいや、じつは最初から動物園がベストだと思ったわけではありませんでした。動物園は小さな子ども向けだとか、見せ物としての演出が無いとおもしろくないという先入観も少々ありました。もっと、自然の中でムシやサルの本場を求めてこそ「てら子屋」ではないかと。しかし、事前にいくつかの動物園に自ら足を運び、さらにスタッフの方々のお話をうかがうと、「動物園こそ、動物観察の本場なのかもしれない!」と思えるようになっていったのです。

 そして、東京都多摩動物公園の昆虫園を会場として第1回、第2回を神奈川県立生命の星・地球博物館と東京都上野動物園で先日終えたところです。結論から言うと、「動物園は、やはり動物をまじまじと観て、わかるための本場だった」ということです。かつて、幼い我が子を連れて多摩動物公園の昆虫園の大温室を訪れ、たくさんのさまざまなチョウがひらひらと飛んでいる光景を見た時の私の感想は、残念ながら「すごいねぇ!」にとどまっていました。しかし、同じチョウでも、その気になってまじまじと観ると、滑空だけでなく、プロポーズしたり、卵を産んだり、蜜を吸ったり、交尾をしたりと、それぞれのやり方でいろいろなことをしています。それを、間近に迫ってまじまじと観ると、「すごいねぇ」ではすまされなくなってきます。ワクワクやドキドキも出てきます。同じチョウの仲間なのに、なぜ違う動作をするのだろうと、不思議もあふれ出してきます。ある小4男子の子は、プロポーズに断られたオオゴマダラのオスを目の前で観て、「きっとあのメスは、他に彼氏がいるんだね」と、言いました。また、しつこくメスを追いかけるオスもいれば、あっさりあきらめるオスもいました。「人間でも同じだね。君ならどうする?」という質問でも盛り上がりました。さらに、上野動物園のサル山では、先生のアドバイスにより、みんなで双眼鏡を使ってニホンザルをまじまじと観ました。私には、動物園で双眼鏡を使って観るという発想はありませんでした。しかし、これはおもしろい。サルの表情、しぐさ、漫然と「かわいいねぇ」とサル山を観ているのとは大違いです。「へぇ縲怐v、「ウォ縲怐vの連続です。子どもたちも、猛暑の中にもかかわらず、双眼鏡をのぞき続け、知らず知らずのうちに、自分たち人間と同じこと、違うことを見て取っている様子なのです。

 ムシや動物たちを、まじまじと観つつづける子どもたちの様子をうかがいながら、私は動物園にできることの大きさを感じました。もちろん、そのためには「本物の本人」も必要でした。動物園の解説員や飼育係の方々、博物館の学芸員の方、これらの人たちのリード無くしては、子どもたちは、とっくに観察を放り出してしまっていたでしょう。やっぱり、本物、本人、本場の三本主義です。そう確信できました。そして、動物園は三本主義が成り立つ場でした。進化のような難しい話しでさえ、説き伏せなくても、子どもたちなりに解き明かしていくのですから。

 それにしても、「人間はどこから来たの?」という問いに答えるのは、なかなか難しそうです。つい最近も、エチオピアで新種の大型類人猿の化石が発見されて、「ヒト・ゴリラの別れ1200万年前、人類の進化史書き換えか」という新聞記事を目にしました。歴史は発見によって変わります。未来も予測しきれません。だからこそ、大事にしなくてはいけないのが、いま生きている動物たちを、まじまじと観るということかもしれません。最終回、私たちは無事に人間にたどり着くのか楽しみです。まじまじ観れば、みるみるわかる、なんてことを調子に乗って考えたりと。。。
(中間 真一)


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