てら子屋
Contents MENU
お問い合わせ HRI HOME
てら子屋とは
てら子屋の活動紹介
お知らせ掲示板
研究室
図書室
てら子屋コラム
てら子屋リンク
トップページへ戻る
てら子屋メンバー専用ページ

てら子屋コラム

理科は好き!だけど、考えるのは苦手?
中間 真一

 国立教育政策研究所から、理科実験や観察に関する小中学生への調査結果が発表されました。翌日の新聞各紙は、ほぼそろって分析結果を「実験は好き。考えるのは苦手」という調子で報じていましたが、これって、どういうことでしょうか?あまり深入りするつもりは無いのですが、コラムを借りてちょっと考えてみようと思います。

 先ずはオリジナルデータから、ということで調査結果を眺めてみました。確かに、「理科の勉強で、観察や実験をすることが好きですか?」という質問に対して、「好きだ」と答えた小学5年生は67.2%、中学2年生は47.5%、「どちらかといえば好きだ」まで入れれば両者8割から9割が該当するほどです。まさに、「実験や観察は好き」なのです。しかし、これは当然の結果のように感じます。席について教科書を読みながら黒板を書き写すような授業に比べれば、たいてい実験や観察の方が好きになれるのではないでしょうか。自分の小学生時代をふり返っても、実験は勉強というよりも「楽しい遊び」、イベント感覚でした。中学生になると、そこまで無邪気になれません。「遊ぶんだったら、面倒な準備や記録やレポート作成など無い、もっと別の遊びの方がいいや」と思う子も出てきて当然でしょう。

 そのことは、「理科の勉強で、自分の考えが正しいかどうかを調べるため、観察や実験の方法を自分で考えますか?」という質問への結果にも表れています。「そうしている」と答えたのは小5で21.2%、中2では7.1%ほどです。似たような質問で、「理科の勉強で、観察や実験の結果をもとにして考えたことをまとめようとしている(考察したり、結論を考えたりする)」と答えたのは、小5で20.4%、中2で16.9%というわけです。

 そんな調査結果から、実験は好きだけど、考えたりするのは苦手という見出し記事につながって、それを裏付けるような結果が、同時に行われたテスト形式の問題の正答率でも表れているというわけです。そして、今の子ども達は「考える力不足」という結論です。確かにそうかもしれません。しかし、これらの記事は、大人だけでなく小中学生も目を通せます。学びの当事者達にとって、「また、ウチらを叩く話しかヨッ」という感じで、気持ちよく受けとめにくいものでしょう。ますます理科から遠ざかってしまうかもしれません。学校の先生だって、不安が増すばかりではないでしょうか。

 だって、今の小中学校の理科の授業の現場では、そういう「思考力を育てる授業」が繰り広げられているでしょうか?私の授業参観体験では、理科の専科の先生以外にそういう授業をしていた方は思い出せません。だから、フツーの先生などは、きっと困っているか、ごまかしているかでしょう。しかし、それは親も大人たちも、仕事や生活の中で同じ状態ではないでしょうか?私も含めて、「ドカンと一発芸」は楽しむけれど、「じっくり思考」は停止状態にある。そんな人びとによる社会に、なかなか明るい未来は描きにくいですよね。

 やはり、「考える力不足」の責任の所在探しよりも、これからどうしたらよいのかを考えた方が良さそうです。話しを戻しましょう。実験や観察は、子どもたちの「?」や「!」を発火させる大きな着火効果があるのは確かです。私たちの「てら子屋」の実践からもひしひしと感じられます。問題は、せっかく着火した火ダネなのに、そのまま放っておいて消えてしまっているということでしょう。子どもたちの「?」や「!」の小さいけれどスタートとなる火を、大きな打ち上げ花火やロケット打ち上げにまでつなげられるように導いていく導火線や、安心して導火線を引ける場づくりに向かいましょう。それには、特に担任の先生が理科が得意ではないことも多い小学校の授業など、大きく変化をつくっていくことも必要だと思います。学校を閉じているより、開いて地域の理科好きやエンジニア、研究者の知恵を持ち込んだ方が、子どもにも、先生にもずっと効果的になる可能性があります。そういう時期が到来したのではないでしょうか。

 翌日の新聞では、PISAの学習到達度調査の最新結果として、「科学的活用力で日本が2位から6位に転落」という記事がありました。再び、PISAランキング騒ぎが始まるのでしょうか?上位にいることに変わりないのですから、ここはランキングに振り回されず、現場の充実に集中したいものです。とにかく、子どもは本来、不思議を感じられること、理科が大好きなはずなんですから。
(中間 真一)

■参考サイト
国立教育政策研究所教育課程研究センター:特定の課題に関する調査結果(理科)


てら子屋コラム トップへ バックナンバーへ

HRI Human Renaissance Institute Copyright © Human Renaissance Institute 2007 All Rights Reserved.