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てら子屋コラム

科学するこころを引き出すには
澤田 美奈子

 ひさしぶりに「夢と魔法の王国」に遊びに行った。私はちょうどあのテーマパークの開園の年に生まれたこともあり、物心つく前からずいぶんと遊びに行ったものだが、何年かぶりに足を運んでみたら、「夢と魔法」を支えている科学技術の存在を非常に強く意識するようになってしまった。

 岩山を全速力で駆け抜けるジェットコースターは、最高所まで引き上げて、そこから一気に下方へ走らせることで、上から落下する位置エネルギーを、猛スピードでぐるぐる回ったりする運動エネルギーに変えることで動く。
 ジャングルの河に住んでいる精巧なカバやゾウが、水面から顔をのぞかせて客の乗ったボートに水をかけたりかけなかったりするタイミングは、プログラム制御によって管理されているものだろうし、立体的 メガネをかけて3D映像を楽しむアトラクションは、人間の視覚認知のメカニズムの研究結果を最新の映像技術と組み合わせて実現しているものだろう。

 その日一緒に行ったシステムエンジニアをしている友人は、「ファストパス」(入場券をマシンに入れると、アトラクションに並ばなくても指定時間に優先的に案内されるシステム)にしきりに感心していた。「一度発券すると記載された指定時間を過ぎるか2時間経過しないと、他のアトラクションで発券することができない」システム設計というのは、なかなか高度な技術らしい。

 このように、科学技術に関心がある人間が、斜に構えた視点から見れば、「夢」のテーマパークには、実にさまざまな技術が使われていることに気付くわけだが、多くの人はそのようなことに関心を寄せることはまずない。

 これは、科学の力で「感動」したり科学技術の恩恵にあずかることと、科学そのものへの関心を持つこととは、別問題であることを示しているのだろう。これだけ高度な科学技術に囲まれた暮らしをしながら、その中身には疑問を持たず、むしろ「科学離れ」とまで言われている今の社会を見てもわかる。

 近年、「科学離れ」の問題を受けて、子どもが「目を輝かせる」授業を目指す政策が、小中学校でも試みられているようだ。たとえば理科の実験の工夫。実験で大きな音を立てたり、火花や白い煙を出したりなど、何かしら派手なことをやれば、確かに生徒は「わあ~っ!」と盛り上がるだろうし、「今日の授業は面白かった」ということにはなるだろう。

 けれども、理科の授業はアイドルのコンサートとは違うのだ。派手なパフォーマンスは、生徒たちを、「もっと見たい」という気にさせるかもしれないが、「なぜそうなるんだろう?」とその先の疑問を問い続けていくための好奇心を育むことに成功しているかと考えれば、なんだか心もとない。

 科学するこころはいかに育まれるものなのだろう・・・と考えていたとき、ちょうど、今年の「てら子屋」講師である松丸俊和先生のいる中学校へ伺う機会があった。

 「教科書の知識はあっても、電気がそもそも何なのか?と考えると、実は何もわかっていない自分に気付くのです」
と、私は正直に告白したところ、松丸先生は
 「そんな澤田さんに見せたいものがある」
と言って、おもむろに席を立ち、豆電球や磁石、針金、謎の黒い粉、使い終えた電車の切符・・・などの小道具を抱えて戻ってきた。そして即興の実験を始めた。

 実験に参加させてもらいながら、これこそが科学するこころの引き出し方なのかもしれないと私は思った。すなわち、科学の知識も、その先を問い続けていく好奇心も、自分の身体で「感じる」ことで身について生まれていくのではないかということである。

 「どう?電気がちょっとはわかってきたんじゃない?」
と松丸先生に聞かれ、私は深く頷いた。

 「電気」という目に見えないものが、自分の手でつくったり、宙に浮く磁石などを触ったりしていくうちに、理屈ではなく体で分かる。体によってふしぎを感じたことを頭を使って考えていく。そして頭で考えたことを体をつかってやってみる・・・そんなふうに、科学するこころというのは、あたまと身体とを交互に、ときには同時に、うごかしながら育まれていくものなのかもしれない。
 そんな経験を、「てら子屋」参加者諸君にもぜひ体験してもらえればと思っている。


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