てら子屋
Contents MENU
お問い合わせ HRI HOME
てら子屋とは
てら子屋の活動紹介
お知らせ掲示板
研究室
図書室
てら子屋コラム
てら子屋リンク
トップページへ戻る
てら子屋メンバー専用ページ

てら子屋コラム

コドモなオトナによるミライ
中間 真一

 今、HRIでは大学生の意識や価値観、未来イメージを探るための調査を進めています。その質問を考えるために、事前にいくつかの大学を訪ねて大学生から話しを聞き回っていました。実際に大学生と面と向かって話しを聞くのはHRIの若手スタッフです。私はと言えば、時おりマジメなやりとりの傍らから割り込んで、毛色の違った質問を大学生たちに浴びせていました。
 本当にとても有意義なプレインタビューでした。その中jでも、話しを聞いた大学生や大学院生たちのほぼ全員が、「自分はコドモです」と答えたことが強く印象に残っています。

 今回、事前に話しを聞いた大学生の多くは、大学3,4年生や理工系の大学院生。つまり、ほとんど20歳を過ぎています。世の中では大人扱いです。しかし、「あなたは、自分のことをオトナだと思いますか、コドモだと思いますか?」と問うと、大学や性別を問わず、躊躇なく「コドモです」と答える大学生がほとんどなのでした。自分の学生時代もそんなもんだったかな?と思い返してみましたが、胸を張って「オトナだった!」と言えるほどではなかったにしろ、「もはやコドモではない」と答えただろうと思い返せます。

 そこで私は、「自分はコドモです」と答える大学生たちに、「じゃあ、どうなった時に君はオトナになるんだろう?」と尋ねます。すると、「自前で収入を得て、暮らしていけるようになった時かな?一人暮らしを始めた時?いや、それじゃあだめだ」とか、「親から独立して、新しい家族を持てた時」、「自分たちの子どもが生まれて親になった時」など、何らかの「自立」を経てこそオトナになれるというイメージが語られました。「いや、いつまでもオトナになれないのかもしれない。コドモでいる方が楽だし、オトナって嫌な感じだし」という意見もありました。

 話しは飛びますが、私が「てら子屋」を始めたり、子どもたちの社会人としてのスタートの場づくりのための風の谷幼稚園づくりを手伝ったりしたのは、子どもたちが「大きくなって、もっとすごいことができるようになりたい!」つまり、成長したいと思って自ら育とうという気になれる場の大切さを感じたからでした。だから、子どもが育っていく先には、「大人になりたい」ということがあったはずなのです。しかし、どうでしょう。大学生たちは、大人のはずの年齢になっても、オトナになったつもりはなく、オトナになることを切望しているわけでもありません。コドモでいられることに幸せさえ感じているかのようです。

 なぜ、こうなるのだろうと考え込んでしまいました。

 お宮参り、七五三、入学式、卒業式、結婚式、お葬式に至るまで、人生の節目には様々な「通過儀礼」が先達の生きる知恵によって組み込まれています。これらの通過儀礼は、ある結界のこちらから、あちらへと渡りきるセレモニーです。もう、あちらには戻れない、こちらの先を目指すのみという、成長した自分の決心を後押しするシステムだったはずです。ですから、成人式は大きな通過儀礼だったはずでした。しかし、最近の成人式にそのような気配は微塵も感じられないようです。ディズニーランドご招待の成人式が人気です。ミッキーマウスと晴れ着姿でツーショットが、果たしてコドモからオトナへの厳然たる通過儀礼なのでしょうか?これは極端な例だとしても、今、日本社会の中では通過儀礼がファッション化しているような気がします。意味はどうでもよく、その時ならではの非日常のハレ気分を無理なく味わうためのファッションチャンスというように。だから、自前の着物は不必要で、派手なレンタル着物が流行るのでしょう。ファッショナブルであり合理的と言えるでしょうが、そこに通過儀礼としての意味はあるでしょうか?社会とは、大人を生産し続けるシステムであるべきだと思います。だから、私は通過儀礼尊重派なのです。

 あまり否定的、悲観的になるのは楽天主義のデクノボーたる私らしくありませんでした。しかし、コドモのままの大人たちが、会社というオトナ社会に入ってきます。家族の中で親になります。世の中を動かし始めます。これまでのオトナ・システムは混乱することは明らかでしょう。一方、これまでのオトナのシステムにリニューアルが必要な部分も歴然としつつあります。もしかすると、「大人になりたい」と思えるようなオトナ・システムへの進化を果たすチャンスなのかもしれません。ニヒリスト太宰治の小説『津軽』の中に「大人というものは侘びしいものだ。(中略)人はあてにならない、という発見は、青年の大人に移行する第一課である。大人とは、裏切られた青年の姿である」という一節がありました。今こそ、このニヒリズムを突破できるのかもしれません。豊かな社会のコドモな大学生たちだからこそ、明るい未来へのオトナ・システムを築けるかもしれません。ぜひともHRIの大学生調査結果をお楽しみに。


てら子屋コラム トップへ バックナンバーへ

HRI Human Renaissance Institute Copyright © Human Renaissance Institute 2007 All Rights Reserved.