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てら子屋コラム

若者は未来をつくれる
澤田 美奈子

 今年もさまざまな出会いがあった一年だったが、特に「てら子屋」のお手伝いやインタビュー調査などで関わる機会も多かった、大学生たちとの出会いは印象的だった。縁あってその中の何人かとはその後もプライベートで交流する機会も持つことができ、社会に出てからは接することもなくなった「いまどきの大学生」と接する貴重な経験となった。

 「いまどきの若者」批評は数多い。例えば『日経MJ』の記事では、20代の若者を「淡々民」と表現している(※1)。肉より魚、伝統的な和風文化を好み、デートは気負わず普段着で自宅、宝飾品も花もあまり贈らない―といった「マイペース」で「素朴」な若者像が浮かび上がる。これらの特徴はそのまま、今回の学生たちの特徴にもおおむねあてはまる。将来について尋ねた際、彼らの多くは、過度の競争主義よりは他者との調和を重んじ、自分と釣り合いの取れたパートナーと家族をつくる平凡な未来に憧れる、「普通」志向の人々だった。

 これはそれまで私がもっていた「学生」へのイメージとは違っている。学生というものはその若さ、勉強はしているのだけれども現実社会に対する無知さゆえに、将来の夢について尋ねたら、無謀な理想や頭でっかちな書生論を掲げるに違いない、と思っていた。しかし実際出会った学生さんたちは自分の将来に対しても実に手堅い考え方をしている。なぜ若いのに、まだ学生なのに、そんなに「しっかり」しているのだろう、ということが気になった。

 お隣の国・中国の大学生調査結果(※2)で、「情報量が多い」がゆえに「早熟」である、という指摘がなされていた記事を読み、ひょっとすると日本の大学生も、情報がありすぎることが、若さに似つかわしくない「しっかり」者にさせているのかもしれないと考えるようになった。

 今回、仕事を通じて親しくなった、卒業を来春に控えた学生さんの一人に、就職について悩んでいる人がいた。いくつか内定をもらった中から自分で決めた就職先ではあったが、インターネットの掲示板や周囲のうわさ話を聞き、(本当にその仕事でいいのだろうか…)という迷いが生じてきたのだそうだ。

 だが数ヵ月後にもう一度会った頃には、迷いは吹っ切れた様子で、最終的にその場所で働くことの最大の決め手となった、「その会社の先輩の話を聞いてピンと来た」という自分の直感を信じた、と話してくれた。

 生まれて20数年、常に「学校」という一種の安全地帯にいた学生にとって、社会に出ることは、バンジージャンプをするような勇気が要るものだが、その綱(ゴム)が頼れるものかどうかをはかるのは、「自分」であるべきだ。しかし今、その判断のものさしが、見た事も無い第三者からもたらされるあやふやな「情報」となってしまっている現実があるのかもしれない。「こうしたらこうなる」といった未来のシミュレーション的な「情報」がありすぎるがゆえに、冒険するよりも普通だが堅実な未来を志向する心理もわからなくもない。けれどそんな世の中にあって、一瞬は周囲に流されかけたけれども、最後は自分自身を信じた青年に、私は心の中でそっとエールを送った。

 悩みの経緯を打ち明けてくれた彼は、だいぶすっきりした顔で、その店で一番高価な焼酎を「やっぱりプレミアものは美味しいなあ~」とおかわりし続け、周囲の学生にも「今夜はパーッと飲もう!」と促し始めた。こちらの懐事情を気にする様子もなく、そのかなりの「KY」行動に、(…最近の若者は『空気を読む』ことを非常に重視する、と言われているはずだが…)と幹事としてはハラハラしたが、しかし、これも若さの良さだ。まだまだ若くて前途洋洋たる学生諸君にとっては、「空気」も「未来」も、「読む」ものではなく「つくる」ものであってほしいから。

 かつてナポレオンは戦況を尋ねられ、「状況?何が状況だ。状況とはつくるものだ」と返したそうだ。「空気?空気なんてものはつくるもの、自分で変えるものじゃないか」と言ってのけるような若者たちがいてこそ、明るい未来も拓いていくというものだ。そんな若い世代を育んでいく社会をつくっていくのが、私たち大人の使命である。

※1 20代は和風「淡々民」、MJ若者意識調査 (日経MJ 2008年10月29日)

※2 中国:1990年代生まれの大学生に関する調査結果 (JST デイリーウォッチャー 2008年11月12日)


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