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「かわいい」という「戦略」
鷲尾 梓

28.jpg 生まれたばかりのチワワを抱いた。両手に収まってしまうほどの大きさの、ふわふわした生き物。眺めていると、自然と笑みがこぼれてくる。無条件に、何でもしてあげてしまいたくなる。

 実は、チワワでも、人間の赤ちゃんでも、生まれたばかりの生き物がかわいいのには、理由がある。

 親や養育者が赤ちゃんを撫でたり、世話をすることは、「マザリング」や「ペアレンティング」と呼ばれている。この「マザリング」には、顔を見る、笑いかける、話しかける、あやすなどの行動も含まれ、赤ちゃんの成長や発達にとってなくてはならないものとされている。

 では、赤ちゃんの側は、ただ受動的に守り育ててもらうことを待っているのか?というと、そうではない。動物学者のローレンツは、幼児の丸い体型と大きく丸い顔、広い額と顔の下半分に大きな目、膨れた頬などの「赤ちゃん顔」の特徴が、相手に「かわいい」という感情を引き起こし、保護機能としてはたらくとしている。

 また、人間の赤ちゃんについてみると、「生理的微笑」という現象が挙げられる。
 先天的に目の見えない幼児の観察などから、「笑う」という表情は、誰かの表情を見て学習するものではなく、持って生まれるものであるとされている。そして、人間の赤ちゃんは、新生児の段階ですでにほほえむことができる。

 新生児のほほえみは、本人の意思とは関係なく、睡眠中に規則的なサイクルで生起するというものである。ほほえむことによって、養育者の「正の興味」を維持させる、つまり、自然と笑みがこぼれ、何でもしてあげてしまいたくなるような気持ちにさせるという機能を担っているのである。

 たとえ生理的なものであっても、新生児のほほえみに対して、養育者は高い確率でほほえみを返すことが知られている。その結果、生後3ヶ月を過ぎた乳児は、今度は自発的に周囲にほほえみかけるようになる。このほほえみは、「社会的微笑」と呼ばれている。「社会的微笑」を身につけた乳児は、ほほえみかけ、ほほえみ返される経験を通して、相手との関係を築くことを学んでいく。

 未熟で、無力な人間の赤ちゃんは、自らはたらきかけたり、周囲から学ぶことができるようになるまでの時間、無条件に受け入れられ、はたらきかけ、世話をしてもらうための「戦略」を持って生まれてくるのである。

 「黒目を大きく見せる」と最近話題になっているコンタクトレンズには、この「戦略」に通じるものがあるように感じる。無条件に受け入れられ、保護される安心から抜け出して自分の足で歩くのが心細くて、「赤ちゃん顔」の特徴を味方につけようとしているのかもしれない。


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