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【コラム】「国際人」を育てる大学の役割、親の役割
鷲尾 梓

 「こんな言葉も知らないの?赤ちゃんみたいだね」「発音が悪くて、何を言っているのかさっぱりわからないよ」

 もう10年以上も前のこと、アメリカへの留学中にホストファミリーの10歳の男の子に言われたことが今でも忘れられない。大学で講義を受けるより、早口でスラング混じりの10歳の男の子との会話の方が難しかった。でも、「赤ちゃんだと思って教えて」と頼むと、彼は言葉のことや学校のこと、友だちのこと、いろいろなことを教えてくれた。

 

 思えば留学中、大学の中で学んだのと同じかそれ以上に、学外で多くのものを得た。地元の新聞の広告欄で中古車を探して値段交渉をして買い求め、自動車保険を手配して、あちこちを旅した。誰に聞いても中古車を買うなら日本製にしろとアドバイスを受け、日本の車に対する信頼を肌で感じたことが心に残っている。一方、旅先で生まれて初めて差別を経験し、悔し涙を呑んだこともあった。いずれも、日本を出てみなければ経験できなかったかもしれない。一年弱という短い期間ではあったが、私にとってはとても貴重な経験だった。

 

 10年前と比べて、世界はさらに小さくなっている。海外旅行も留学も、前にも増して身近なものになり、韓国や中国など、アジアの他の国々では学生の海外志向が強まっている。しかし、日本人の海外留学者数は、2004年をピークに減少の一途なのだという。ピーク時の約83千人に対して2009年では約6万人と、23千人も減っている。

 このままでは、国際競争力が失われるのではないか--現状への危機感から、文部科学省は、学生の海外留学に積極的に取り組む大学への支援制度を創設することを決めた。語学力を養成する授業の設置や、留学についてアドバイスする窓口の設置、外国人教員の受け入れ強化等を推進するねらいで、40校程度を選定し、1校あたり年間1億〜2億円を助成するという。

 

 この制度が、学生たちが一歩を踏み出す後押しになれば、と思う。一方で、今の日本人学生の「内向き志向」に対して、また別の角度からのしかけも必要かもしれない、とも感じている。「踏み出してみようかな」と思うとき、言葉は大きな後押しになる。しかし、「踏み出してみようかな」と思う気持ちを引き出すのは、実は言葉より、そこに会いたい人がいるとか、見たいものがあるとか、したいことがあるとか、あるいは逆に「ここ」から離れてみたいとか、「目的」だと思うのだ。語学力を養成する授業も大切だが、自分の目で見てみたいと思うような「世界」のかけらを見せていくことこそ、大学の役割ではないかと思う。

 

 親の役割についても考えさせられる。幼い子ども向けの英会話教室がにぎわいを見せる一方で、公園に行くと、いつもインド人の親子が孤立して遊んでいる。「国際人」を育てたいと思うなら、英語を習わせることよりむしろ、ほかの人に話しかけるのと同じように、インド人の親子にも声をかける親の姿を見せることではないかな、と思う。日本語で「こんにちは」だっていいのだ。言葉が通じなくても一緒に遊ぶことはできる。そうして一緒に遊び、友だちになるうちに、伝えたいことが出てきて言葉を教え合ったり、インドが「行ってみたい」国になったりする。肌の色や言葉の違いを壁とせずに、関わることができるようになる。日本に住む外国人にとって、日本がより暮らしやすい国になる。「国際人」の根っこを育むのは実はそんな、小さな経験の積み重ねかもしれない。


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