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【コラム】 高齢期に向けて学び得るべき"意識"
田口智博

6月半ばに閣議決定された2012年版「高齢者白書」によると、日本の65歳以上の高齢者人口は、昨年より50万人増えて2975万人の過去最高になったと報告されている。"高齢化社会"と叫ばれ続ける中、その数は3000万人に迫る勢いで、およそ4人に1人が65歳以上、さらに10人に1人が75歳以上の後期高齢者に該当するという。日頃、街中を歩いていても、そのような統計値と実態を自ら確かめるべく、思わず周囲に目を配ってしまうような現状にある。また、最近は消費税の議論が物議を醸しているが、今後の社会保障問題をはじめ、社会の先行きについてさまざまな観点から考えていく必要性を日に日に強く感じる。

 

 ちょうど先日、「高齢者住宅フェア」に足を運ぶ機会があったが、高齢者の増加に伴いニーズの高まりをみせるサービス付き高齢者専用住宅のセミナーブースでは、事業関係者などが多く集い活況を呈していた。シニアビジネスともいわれるが、そこではいかに効率的なサービス提供を実現していくかなど事業に関するノウハウ紹介が行われていた。

 仮に、若い家族がマンションタイプの新居で暮らすとなると、たとえ間取りなどが画一的であろうとも、その空間ではそれぞれ個性溢れる新生活が営まれる光景が想像される。一方、高齢者に限った住まいになると、充実したサービス提供が売りとなって不自由さは感じられないものの、そこで本当に生き生きと暮らせるのだろうかといった疑問も残らないわけではない。ただ、現実問題として今後、高齢の夫婦世帯あるいは単身世帯の増加は避けられない。その現状を踏まえると、境遇の近い高齢者が環境を同じくして、生活を営めるというメリットは当然少なくない。高齢者の暮らしの質という面では、まだ工夫の余地が残されているであろうそうした住まいには、今後のさらなる向上が望まれるところである。

 

 ところで、高齢者にとっては、住環境はもとより、外出機会の減少などによる身体機能の低下には最も注意を払わなければならない。()東京都老人総合研究所の調査によると、高齢者の外出頻度が「1日に1回以上」と「2~3日に1回未満」では、後者の歩行障害の発生リスクが約4倍高まるという結果が示されている。実際、このことは都市に限らず、最近では地方においても自宅に閉じこもりがちな高齢者の増加が問題視されつつある。

 しかし、単純に外に出て歩けば良いという話でもなく、高齢になるにつれて身体を動かす際の意識が大切になるとの指摘がなされる。これに関して、例えばフェルデンクライス健康法と呼ばれるメソッドは、日常生活で効率よく、楽に動くことができる方法の理解に役立つとされている。椅子から立ち上がる際には、両足で床を押し、姿勢を前傾にして余分な力を使わずに動く。また寝室で起床する際にも、腹筋等の筋力に頼らず、身体の向きや手足の付く位置など上手く連動させながら動く。要は、運動には体重のかけ方や力の入れ方などへの意識が大切で、それによって運動をつかさどる脳機能にも良い影響が出るという。日頃からのこうした心がけが、運動の質を高めて身体機能の維持へ結びつくと期待されているのである。

 

 高齢化問題というと、日本に限った問題ではなく中国や韓国などでも懸念されている。なかでも中国では、急速に進む高齢化によって高齢者の孤独死などが社会問題化しつつあるという。その対策として、議会では高齢の親と離れて暮らす子供に定期的に帰省を義務付ける法案が議論されているそうだ。

 このように何かしら打ち手を考えていく場合、制度や住居にみられる設備でサポートを進めていくことはもちろん必要であろう。しかし、それらは高齢者が本当に望む暮らしを叶えうるものでなければならない。そういう意味では、身体を動かす際の意識づけのように、誰しもが年を重ねていく中で適切な気づきを学び得て、実践していけることが健やかな高齢期を過ごす一つのきっかけになるかもしれない。 


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