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「天職」は選びとるもの? つくりあげるもの?
中間 真一

32.jpg 村上龍氏の『13歳のハローワーク』が話題となってから、もうだいぶ経つ。私も当時、この「職業図鑑」のページを興味深く繰った。そして、これまでに無いおもしろい図鑑だと感じた反面、シンボリックに「13歳」という対象年齢を掲げて書かれているという点に、なにか座りの悪さを感じていた。

 私は、今から約5年前、オランダと日本の13歳を対象としたアンケート調査とインタビューを行っていた。オランダの教育体系では、12歳から13歳になるタイミングで、大きな人生の自律的な選択が必要とされると言われていたからだ。すなわち、将来の職業を意識した教育コースか、高等教育を目指す教育コースを、日本の小学校卒業時と同じ時期に選択するという意味を、自分なりに感じ取りたかったのだ。

 この制度に対しては、将来選択の時期が早すぎるという批判も当時のオランダ内にはあり、その後もさまざまな教育制度の改善が加えられている。しかし、少なくとも13歳の子ども達に、職業コース/高等教育コースのどちらを選んだかによる、勝ち組/負け組のような意識や言動は、微塵も感じられなかったことは、とても印象的だった。子ども達の中に、両コースの優劣が感じられないということは、職業に優劣をつけないという、その社会の大人達の自律的な価値観の反映だろう。だから、子どもや親たちは、本人の今後の人生を決めてしまうかのような、大げさなとらえ方をもせずに、進学コースの選択をしていたようだった。途中で変えたくなったら、変えればいいのだ。それで、損をすることはないのだ。そして、彼らに「自分の将来は明るいか?」という質問をした結果は、コースを問わず、過半数が「明るい」と答え、同時に同じ質問で実施した日本の13歳の回答よりも15ポイント程度上回っていた。

 村上龍氏は『13歳のハローワーク』の前書きの中で、「子どもが、好きな学問やスポーツや技術や職業などをできるだけ早い時期に選ぶことができれば、その子どもにはアドバンテージ(有利性)が生まれます」と述べている。本当に、そうだろうか?周囲の仲間たちにも問いかけてみたが、なかなか手放しの同意は得られなかった。しかし、世間の学校教育関係者や影響力のある人々、マスコミなどの当時の論調は、概して若者たちの職業意識や人生目標の希薄さを解消し、天職を見つけることを、もっともっと意識して学校に通い、学校で学ぶための指南書として、この本を評価していたようだ。

 私は、この著作の意味は大いに感じるのだが、子ども達や世間に対して具体的な「職業意識」の強化を煽るような、教育サイドの論調には大きな問題を感じていた。このような「自分が最も好きな仕事、自分に最も適した仕事、天職を早く見つけなくてはいけない」と迫られ、煽られる結果、子ども達や若者達の職業へのアクセスを、より慎重にさせてしまったのではないかと感じている。みなさんは、どのようにお感じになるだろう? 私も、そして周囲の多くの仲間達も、なるべく早く、自ら天職を見つけてハッピーになったというわけではない人たちの方が多い。偶然転がり込んできた仕事からだったり、最初は好きではなかった仕事だったり、ようやく40にしてやりがいのある仕事を感じられたり、意外な縁から関わったが今では天職になっていたり。そんな焦る必要は無いように思えるのだ。

 確かに、小学校時代の体験が、自分の将来を決定づけたという人とも出会う。今夏のてら子屋では、地学系のフィールド・プログラムを最高の人と場をセットして実現しようと企画に走り回った。その結果、北海道の中川町という遠方まで出かけ、化石や地層、天体について学んでくる予定だ。このプログラムには、子ども達が安全に、そして驚くような発見のできる場、その場に加えて、高い専門性を持ちながら、子ども達の発見の驚きやうれしさを共感できる人が重要だ。今回も、きっとそれに応えてくれるだろう、地元で古生物学の研究や博物館のプログラム実施に熱意を注ぐ人物や、東京からわざわざ同行してくださる天体観望の専門家、それに地元の科学館で事前の解説をていねいにしてくださった、化石や天体が好きで好きでしょうがない人たちとの巡り会いがあったからこそ実現した。

 北海道の彼は、九州出身なのに北海道にいる。なぜだろう?彼と共に山の中に入った時に尋ねてみた。「いやあ、僕もまさに、てら子屋ですよ。小学校5年の時に参加した、こういうプログラムがきっかけで、この道にはまってしまったんですよ。途中、ちょっと消えかけそうになったこともあったけれど、あの体験があったから、大学受験も頑張れたし…」とニコニコ顔で語りながら、化石を探す彼の目は、本当に楽しそうだった。

 今夏のてら子屋では、参加者の子ども達の誰かが将来を決めてしまう発見をするだろうか? そう思うと、楽しみでもあり、責任も感じる。だからこそ、ていねいに学びの場の実験場「てら子屋」をつくっていきたいと思っている。「天職を、早く自力で見つけないと損するぞ」なんて雑音に惑わされず、いろんなチャンスを楽しみ、苦しみながら、ゆっくりと自然につくりあがっていく「天職」を目指したいものだ。本当に大事なのは、天職を選び取る選択力ではなくて、チャンスをチャンスとして気づける自分の内のセンサー感度じゃないのかな。


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