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【コラム】ナミビアの赤ちゃんに教わる「自然」
鷲尾 梓

 アフリカ、ナミビア。ひと組の親子が並んで道を歩いている。よちよち歩きの子がぐずると、母親が腰を屈めて乳房を差し出し、立ったままの姿勢で乳を与えた。「ベイビーズ」という映画のワンシーンに、私ははっとさせられた。人間は動物だ、ということを改めて認識したのだった。

 

 「ベイビーズ」は、日本、アメリカ、モンゴル、ナミビアの4人の赤ちゃんの誕生から歩き出すまでの約一年間を追ったドキュメンタリーで、台詞やナレーションは全くない。リズミカルな音楽を背景に、それぞれの赤ちゃんの日々の暮らしが画面いっぱいに映し出されていく。

 日本で子育てをしている私にとって、日本とアメリカの赤ちゃんの暮らしがごく「普通」のことに感じられるのに対して、モンゴルとナミビア、とくにナミビアの女の子、ポニジャオの暮らしは新鮮だった。裸で、全身土まみれになって地面をはいはいして、水たまりの水に顔をつけて飲む。木の枝や小石、生活用品をおもちゃに、きょうだいや家畜と戯れてすごす。彼女に、赤ちゃんが本来持っている力を、生き物としての自然な姿を教えられた気がした。

 

 強く意識していなければ、日本での子育ては「自然」から大きくかけ離れたものになる。もちろん、安全に、快適に過ごせるようにと工夫を重ねることで得られた今の暮らしを否定するわけではない。けれど、子どもにとって、人間にとって「自然」な状態とはなんだろう、と自問し続けることは必要なのではないか、と思っている。

 

 親の働き方もそのひとつだ。「仕事と育児」の間で揺れる多くの女性の一人として、「自然」な働き方とはなんだろう、と常々考えてきた。映画の中で、子どもの姿が見える距離にいながら、料理や手仕事、家畜の世話、さらには屠殺まで、様々な「仕事」をこなしていくモンゴルとナミビアの母親たちの姿に、ヒントをもらった。生活の中に当たり前に仕事がある。かつては日本でも当たり前に見られたはずの光景が、そこにあった。働く母親の傍に座り、真似をすることが遊びであり、学びでもある子どもたちの姿が印象的だった。

 

 今、日本では、仕事と育児の両立を支援する施策のひとつSとして、育児休業期間の延長が議論されている。それももちろん大切な視点ではあるが、「生活」と「仕事」を切り離し、生活のために一定期間仕事を休むという発想だけでは限界があるだろう。働く場や時間の「当たり前」を問い直し、第一次産業に限らず、生活の中に仕事がある、子どもが親の働く姿に学ぶ、そんな新たな生き方の選択肢が増えていけばうれしい。過去とも、他国の現状とも違う、日本の未来に合った「自然」の形がみつかるはずだ。

 

 

○映画「ベイビーズ」公式サイト http://babies-movie.net/

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