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脱「三日坊主」の楽観主義
鷲尾 梓

37.jpg 年の初め。新たな気持ちで、いろいろな目標をたてる人も多いのではないだろうか。「禁煙」「ダイエット」「日記をつける」「語学を習得する」・・・毎年同じ目標を掲げている人もいるかもしれない。しかし、家族や友人が目標を口にしたら、それがたとえ去年と同じ目標だったとしても、「どうせ三日坊主でしょ」などと言ってはいけない。

 心理学者のセリグマンは、ものごとの成功を左右する要因として、「楽観主義」に注目している。「楽観主義」「悲観主義」とは、人がさまざまな出来事に直面したとき、なぜそのようになったのかを自分に説明するときの「癖」のようなものである。この「癖」は、3つの要素から成っている。

 ひとつは、「永続性」。ある状況や出来事が、その場限りのもの(一時的)ととらえるか、ずっと続く、あるいは影響を与え続けるもの(永続的)ととらえるか、という「時間」の軸を指している。いつも楽観主義的なとらえ方をする人(オプティミスト)は、悪い出来事については一時的なもの、良い出来事については永続的なものと考えるのに対して、悲観主義的なとらえ方をする人(ペシミスト)は、悪い出来事は永続的なもの、良い出来事は一時的なものととらえる傾向が強い。

 もうひとつは、「普遍性」。ある出来事の原因は、その状況下だけに限定されると考えるか、ほかの場合にも当てはまるものであると考えるか、という「範囲」の軸である。オプティミストは、悪い出来事については限定的な理由によるもの、良い出来事については普遍的なものととらえるのに対して、ペシミストは悪い出来事の方を普遍的なものととらえる。

 最後は、「個人度」。出来事の原因を自分にあるとするか、自分以外の外的な要因(状況や運、他者など)にあると考えるか、という「原因帰属」の軸である。オプティミストは、悪い出来事の原因は外的なもの、良い出来事の原因は内的なもの(「自分のおかげだ」)ととらえるのに対して、ペシミストは、悪い出来事の原因を内的なもの(「自分のせいだ」)と考え、良い出来事の原因は外的なものととらえる。

 典型的なオプティミストとペシミストがそれぞれ目標を掲げて新年をスタートするとしたら、これらの要因はどのように働くだろうか。その違いは、順調に目標を遂行しているときではなく、目標に挫折しそうになったときに現れる。

 たとえば、「ダイエット」を目標としている二人が、御節料理を食べ過ぎてしまったとしたら・・・?悪い出来事について、「一時的」で「限定的」、そして「外的な要因によるもの」ととらえるオプティミストは、「今日はお祝いで、おばあちゃんが一生懸命作ってくれた御節料理を食べ過ぎてしまったけれど、明日からはまた頑張れる」と考える。一方、悪い出来事を「永続的」で「普遍的」、「内的な要因によるもの」ととらえるペシミストは、「ダイエットを目標に掲げたのに、三日も経たないうちに食べ過ぎてしまった。やっぱり、私にはダイエットなんて無理だったんだ」と落ち込む。

 もちろん、「明日からはまた頑張ろう」という決心が現実のものにならなければ、オプティミストのダイエットも成功しない。しかし、目標に挫折しそうになったとき、「私には無理だったんだ」と落ち込み、達成をあきらめてしまうことは、その目標だけでなく、他の面での自信にまで影響を与えてしまう(「私は何をやってもだめだ」)こともあるので注意が必要だ。そこで、セリグマンは、「柔軟な楽観主義を身につけること」、つまり、困った状況に直面したときの自分の考え方の「癖」を変えることを提案している。

 この考え方の「癖」の形成は早い時期に始まり、8歳で既に築かれるというから、改めるのは容易ではない。まずは、自分の考え方の「癖」を知り、悲観的な考え方をしていると気づいたときは、その考え方に自ら反論を試みることが必要だ。
反論のポイントは、
 ○その考え方に証拠はあるのか?
  (私にダイエットは無理だという証拠は?
   それは一時的なもの、限定的なものではないのか?)
 ○別の考え方はできないか?
  (食べ過ぎてしまったから、運動をいつもより増やすというのはどうだろうか?)
 ○そう考えることは自分にとって有意義なのか?
  (「私は何をやってもだめだ」と思うより、「これぐらいならできそうだ」と
   考えた方が建設的では?)
など、いつも頭の中で無意識のうちに出している結論を、ひとつひとつ意識的に整理していく。紙に書いたり、手伝ってくれる人をみつけて、ロールプレイをすることが効果的だという。

 新しい年の初め。新たな目標への取り組みは、自分の考え方の「癖」を知る良い機会にもなりそうである。「楽観主義」「悲観主義」は周囲の人の言動からも大きく影響を受けるというから、家族や友人など、周囲の人と協力して「柔軟な楽観主義」の獲得を目指すのも良いかもしれない。

【参考文献】
マーティン・セリグマン (1994) オプティミストはなぜ成功するか 講談社文庫


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