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てら子屋コラム

地図を手に歩く
~プロジェクト・ベース学習は、学びの旅路~
鷲尾 梓

34.jpg 旅行先で借りたレンタカーに、カーナビがついていた。
 カーナビがあれば、初めて訪れた土地でも、ハンドルを握った瞬間から好きなところに行くことができる。
 方向音痴の私にとって、ナビの存在はとても心強い。
 しかし、この便利さには、弊害もある。


 ナビを使っていると、全くといっていいほど道を覚えない。
 そこで、このままではいけないと思い、ポケットサイズの地図を買って常に持ち歩き、行く先を書き込むことを始めた。
 図書館や友人の家、お気に入りの店・・。これまでに行ったことのある場所が書き込まれた点の集まりは、だんだんと線となり、面となって、自分のいる場所とさまざまな場所の位置関係がよくわかるようになってきた。
 自分の手の中に地図があり、自分の位置がわかるということは、なんと安心感のあるものだろうか。いつもとは違う道を通ってみたり、寄り道をしてみようという冒険心も生まれる。

 夏の終わり、私はあるワークショップに参加した。
 ワークショップの講師は、ミネソタ州ヘンダーソンにあるチャータースクール、「ミネソタニューカントリースクール」と、その支援組織である「エドビジョン」で教育改革に携わってきたスタッフ。山中湖畔のセミナーハウスで4日間、チャータースクールの理念と、ミネソタニューカントリースクールで行われている「プロジェクト・ベース学習」について、実践を交えて学んだ。

 「プロジェクト・ベース学習」では、教科の枠組みを越えて、さまざまなテーマを掲げて主体的に学びを進めていくことを重視する。日本の「総合的な学習の時間」の学びのあり方にも共通するものがあるが、ミネソタニューカントリースクールでは、カリキュラムの全てをプロジェクト・ベース学習によってカバーしており、その学びを支えるためのシステムが探求されている。ミネソタニューカントリースクールの視察の際、生き生きと学ぶ子どもたちの姿を目の当たりにしてきた私にとって、ワークショップは、この学びがどのように成り立っているのかを知る上で良い機会となった。

 このワークショップを通して最も印象に残ったことのひとつが、「学びにも『地図(ロードマップ)』が必要」という考え方である。
 セミナーの講師の一人、ボニー・ジーン・フロム氏は、「従来の学びのスタイルの中では、生徒は、『地図』を持たされてこなかった」と言う。与えられた教科書に沿って、言われたことをきちんとやる。それが当たり前とされてきた学びの場では、「地図」は教師の手の中にあり、生徒はその後ろをついて歩くだけ。そうしている限り、子どもたちはどれだけ「学び」を重ねても、本当の意味で一人で歩けるようにはならないのだと。
 
 プロジェクト・ベース学習の評価には、「ルーブリック(rubric)」と呼ばれる評価表が用いられる。特に小学校年齢の子どもたちの場合、プロジェクトは、このルーブリックを教師と生徒が一緒に作るところから始まる。
 たとえばワークショップでは、「好きな動物を選び、その動物について調べて発表する」というプロジェクトに取り組む際のルーブリック作りを体験した。
 「プレゼンテーションで、大事なことは何だと思う?」という教師の問いかけに対して、生徒役の参加者が思いつくことを挙げていく。
 「ビジュアルエイド(図表や絵、写真、実物など)を使うこと」
 「実際に動物を連れてくる(!)」
 「聞き手の目を見て話すこと」
 「発表の時間を守ること」
 「情報が正確であること」
 「わかりやすいこと」
 「聞き手が楽しめること」・・・
 次に、これらを細分化して、「良いビジュアルエイドってどんなものだろう?」「反対に、良くないビジュアルエイドってどんなものだろう?」「聞き手が楽しめるプレゼンテーションって?」・・・と、ディスカッションを進めていく。

 ディスカッションの結果は教室の壁に貼りだされ、生徒たちはこのガイドラインと照らし合わせてプロジェクトをすすめていく。プロジェクトの最終目的地がどこにあるのか、目的地に向けて今自分がどのあたりにいるのかを、常に自分で把握することができるのだ。ルーブリックという評価手法は、結果を「採点」するためのものではなく、子どもたちの学びをガイドする、「地図」として使われている。

 ワークショップに参加した小学校・中学校の先生方の中からは、「これ、クラスでやってみよう」という声があがっていた。少し迷ったり、寄り道をしても、一人一人が地図を手に歩くことのできる力を育む、そんな学びの場を作りたい。そのために、既にある学びの場でも、取り入れられる要素は充分にありそうだ。


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