COLUMN

2011.12.01中野 善浩

シリーズ「ポスト3.11のあたりまえ」#5未来へクールに投資しよう

 8年前に東北地方の市民風車に投資した。個人からの出資を募って風車を建設し、風で発電した電気を電力会社に買い取ってもらい、利益は個人に還元するというプロジェクトへの投資である。北欧では1990年代後半から、このような市民風車は当たり前のように建設されていた。当時、そのことは知っていた。しかしエネルギー政策の違いなどもあり、日本での市民風車は希である。信頼できる知人からの勧めであったけれども、やはり先行きは不安で、投資金額は一口だけの10万円とした。10万円なら失っても諦めがつくし、勉強にもなる。
以来、市民風車を運営する組織から定期的に報告が送られてくる。小さなトラブルはあったものの、東北の市民風車は安定的に発電し、5年後には配当金が入金された。配当は年利にして2%強。デフレ下の日本では、定期預金の金利は1%を大きく下回る。「ハイリターン」とは言えないものの、2%の金利は十分に高いと見ていいだろう。味を占めた小市民は、その後も日本海側の風車に投資し、つい先月には故郷・富山県の 小水力発電所に投資した。総事業費10.5億円、営業開始予定が2012年4月で、契約期間は7年。投資は1口50万円からで、年間利回りの目標は3%とされている。

 東日本大震災が発生した2011年3月11日。ちょうどその日、再生可能エネルギー買い取り法案が閣議決定され、曲折を経て8月に法案が成立した。いよいよ2012年7月から、太陽光発電や風力などの再生可能エネルギーが固定価格で、電気事業者に買い取られることになっている。そしていま、大規模面積で太陽光発電パネルを敷設するメガソーラーが注目を集め、家庭向けの太陽光発電システムの出荷も大きく伸びると予想されている。
 もちろん、太陽光発電は有力な手段である。しかし現状では、やはり太陽光発電システムは庶民にとっては高い買い物であり、日照時間の短い地域、住まいの形態、近隣の状況によっては、十分な発電量が得られない場合がある。また、1kWh当たりの発電コストは、風力や水力に比べて、太陽光発電では格段に高い。そうであるなら、条件の良い場所での、しかも効率の高い発電設備に、無理ない範囲で投資することも、合理的な選択肢のひとつと言えるだろう。「餅は餅屋」というクールな選択である。

 日本において、再生可能エネルギーの発電ポテンシャルがもっとも大きいのが風力であり、地域別にみると北海道、東北が、他に比べ群を抜いて高い。すなわち東北地方は、風力発電を地域の復興・振興の手段のひとつと位置付けることできる。いっぽう人や建物が集中する東京などの都会では、再生可能エネルギーによる発電設備を設置する適地が限られ、そして、東日本大震災の被災地・東北を支援したいと思う人たちも少なからずいるはずである。かりに東北地方で、市民風車のようなプロジェクトが実施されれば、相応の投資応募があるだろう。それは東北と都会の人々を結び、そして東北の未来をつくる投資になる。北欧などで当たり前の市民レベルでの再生可能エネルギーへの投資が、日本でも当たり前になってほしいと思う。

 ちなみに我が家では、市民風車への投資は、子供の名義で行っており、発電の実績報告やイベント案内などの郵便物は、子供宛てに届くようにしている。どれほどの効果があるかは不明であるが、未来への教育的効果も狙っている。風車や小水力発電所は、自然が豊かな地域にあり、周辺の景観などを配慮して建設される。まだ実現していないが、いずれ現地を旅したいと考えている。
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