COLUMN

2022.05.16田口 智博

インクルーシブな思考

-バイアスを取り払った協働・共創に向けて-

 未来を考える際のキーワードとして、“インクルーシブ”という言葉が用いられるケースが増えてきています。「インクルーシブ社会」「インクルーシブ教育」「インクルーシブデザイン」…といったように。
 日本語では「包み込むような/包摂的な」と訳されますが、最近では、誰ひとり取り残さない持続可能な開発目標であるSDGsの考え方が、こうした言葉によって表現されています。

 この3月の話になりますが、「刑務所と協働するソーシャル・イノベーション」というカンファレンスに参加をしていました。テーマとする“誰も置いていかない社会のために、いま刑務所と共にできること”について、セミナーとワークショップを通して考える場でした。
 参加するにあたって、日頃、刑務所と自分自身や地域社会との関わりを考えるきっかけはそうそうないな、というのが率直な思いとしてありました。まさに、インクルーシブな思考が欠けている状態です。そのため、国と民間が協働で運営しているPFI(Private Finance Initiative)刑務所の存在。また、PFI刑務所は、民間の資金だけでなくアイデアやノウハウによる工夫が凝らされ、社会復帰促進センターという名称が付けられているなど、個人的に初めて知る事柄が少なくありませんでした。

 特にセミナーパートでは、先進事例としてイギリスにおいて、地域貢献・循環型経済・再犯防止の実現に、一役も二役も買っているRecycling Lives社の活動紹介がありました。
 同社は、地域で廃棄されたテレビやパソコンなどを修理・再生し、市場に還元する事業を展開する民間企業です。現在、イギリス北西部の7つの刑務所に作業場を設置し、受刑者へのリサイクル技術指導を通して、修理に必要な国家資格取得をサポート、また出所後の就職支援までも行っていると言います。
 イギリスでも受刑者に対する様々な偏見があり、社会復帰の際の障害が課題だそうです。同社代表のアラスデア・ジャクソンさんは、「当初は、作業所を自社のために働いてくれる場所と考えていたが、何年も続ける中で受刑者の助けになりたいと思うようになった。取り組みで大事なことは、受刑者の権利擁護と更生の機会が得られるように代弁すること」と刑務所・受刑者らと協働による社会課題解決の意義を語っていました。
 また、Recycling Lives社は、この取り組みスタート以降、サーキュラー・エコノミーの社会潮流とも相まって、現在年間100億ポンド(約1兆6000億円)を売り上げるまで事業を拡大しているという。

 昨今、持続可能な社会の実現に向けては、協働や共創の必要性が盛んに叫ばれるところです。しかし、そうした際、私たちはバイアスが掛かったりしていて、協働や共創の可能性をみずから閉ざしてしまっているケースも往々にしてあるのではないでしょうか。こうした刑務所との協働事例のように、私たちが知らず知らずのうちに設けてしまっている“隔たり”を取り払うアクションが、誰ひとり取り残さないというインクルーシブを体現した未来創造を前進させていくはずです。
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