COLUMN

2022.08.18小林 勝司

多元化する豊かさを測るうえで大切なこと

前回のコラムでは、未来社会における豊かさ指標は、GDP(国内総生産)のような経済価値に基づく単一指標から、BLI(より良い暮らし指標)のような個人の価値観に基づく多元的指標群へ変化していくと予測した。今回は、経済活動と人々の価値観変化により、多元化していく豊かさを測る上での要件について考えてみたい。

今後、経済活動は、サービス業の割合が増加するとともに、オンライン活動の領域が拡大し、一層、物質的な経済から、形のない経済へとシフトしていく。ソフトウェア開発者やクリエイターなど、サービス業が主流化すれば、量的価値よりも質的価値の追求が中心となり、延いては量の概念すら無くなる可能性がある。また、メタバースやブロックチェーンなど、オンライン活動の領域が拡大すれば、人々が支払うコストよりも得られる価値が更に拡大し、マージナルコストが限りなくゼロに近い社会が到来するかもしれない。こうした経済活動が進めば進むほど、物質的な豊かさに固執せず、消費を前提としない豊かさの測定が求められていく。

また、人々の価値観は、持続可能性問題に対する切実感を一層強めている。環境破壊を生み出す製造業や、格差をもたらす金融業など、今や、持続不可能な経済成長のもとでは人々の主観的幸福は充足されない。また、世界的な人口増加が進む中、現在の豊かさが将来の豊かさに対しどれだけの犠牲を払っているかなど、長期的な視点に立った議論は一層過熱化している。こうした意識が強まれば強まるほど、社会的マイナス要因を控除した豊かさの測定が求められていく。

消費を前提としない豊かさや、社会的マイナス要因を控除した豊かさとは、いずれも人々の主観的幸福を前提とした豊かさである。経済学者のジョセフ・E・スティグリッツ氏によれば、主観的幸福とは、自己の生活に対する評価や経験に基づく情動のみならず、エウダウモニアといった人生の意味や目的に対する充足感も含まれるのだと言う。となれば、今後、多元化していく豊かさを測定する上で、まずは、多種多様な人々の人生観や宗教観などを受容していくことが要件となるのではないだろうか。
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