COLUMN

2022.03.10田口 智博

サスティナブルな社会実現へのエッセンス

 サスティナブルな社会を実現させていくには?そんな問い掛けに対して、変異型の出現が続くコロナウィルスの世界的大流行、ロシアのウクライナ侵攻がもたらす国際紛争をはじめ、いま起こっているさまざまな事象の背景に思いを巡らせると見えてくることも少なくありません。
 たとえば、感染症の問題では、自然環境や生態系の破壊が人間にとって新たなウィルスとの接触機会の増加につながっています。その結果、現在のパンデミックだけでなく、今後同様の事態を招くリスクの高まりが指摘されています。また、人の生存が脅かされるという意味では、気候変動問題も確実に深刻さを増していて、私たちは社会問題により真摯に向き合う必要性に迫られています。

 一方で、社会問題やその背後にある要因への関心や気づきをもった上で、社会をどんな状態に近づけていくのが望ましいのか?この点に関して、なかなか適当なイメージを持ち合わせることができず、問題解決や要因排除がなかなか進まない、着手しづらいという現状があるのも事実です。
 そんな中、映画のようなコンテンツに目を向けると、最近はSDGsのカテゴリーごとに作品がラインナップされているサイトがみられたりします。これからの社会のあり様を考えていこうとする際、このような映像作品からインスピレーションを得て、自分ごととして思考や行動につなげていくこともできそうです。

 昨年来、自身が観てきた映画を思い返してみると、『カナルタ 螺旋状の夢』(※)という作品があります。この映画では、自然と人間の共生について、自然環境と密接に関わり合いをもちながら暮らすアマゾンの先住民の生き様を通して描かれています。ひと昔前であれば、こうした先住民にスポットライトを当てたドキュメンタリー映像は、「現代から取り残された人の姿」として映るケースが大半だったはずです。
 しかし、自然を壊して社会を豊かにすると同時に、多くの課題を抱えてしまった現在の社会からは、この作品の見え方は従来とは異なってきます。映像の中では、先住民が森を牧畜や畑の場にはせず、先祖代々受け継がれてきたままの状態を保ち続けています。そこでは、自分たちの暮らしを持続可能にしていくための取り組みという強いメッセージが発せられるシーンとなっています。これまで“開発の地”と“開発から取り残された地”という2つの関係性で捉えられがちだったところに、“持続可能な地”という自然との共生の姿が示され、印象に残る場面の一つになっていました。

 こうしたコンテンツに対して、社会問題やSDGsをテーマとした映画といった先入観をもってしまうと、まだまだどこか取っ付きづらさのようなものを抱きがちであることは否めません。
 ちょうど先日、映画配給をされている会社の方とお話をする機会がありました。その際、「映画として、作品そのものを楽しめる娯楽性を大切にしつつ、見終わった後に社会問題などの何かしらメッセージ性が伝わるような良作を目利きしていくことが大切」といった意見を聞かせてもらいました。
 この話を思い出しながら、確かに押し付けや無理強いをしては、どんなことも自分ごとにはなっていきません。映画にみられるような、誰もが気軽に興味関心を向けられるエンターテイメント性が、“サスティナブルな社会”ということを考え、実現させていくには大切なエッセンスになってくるのかもしれません。
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