COLUMN

2022.06.09小林 勝司

GDPに代わる豊かさ指標について考える

この先の未来、人々の豊かさとはどのように変化していくのだろうか。かつての日本人は、三種の神器に代表されるように、耐久消費財を手に入れ、欠乏欲求を満たすことが豊かさであった。そして、現在社会では、インターネットやスマートフォンなどを通じ、利用可能な機会や選択肢を増やし、多様性を享受することが豊かさとなっている。この先の未来、社会の自律分散化が進み、人々の豊かさは多元化していくに違いない。となれば、人々の豊かさを測る指標も、単独の複合指数では立ち行かなくなることは明白である。

ご存じの通り、現在社会では、経済実績と社会発展の尺度としてGDP(国内総生産)が活用されている。GDPとは、生産・支出・所得の各総量を示していることからも、その国が何個生産し、何個消費したか、所謂、数を数える統計と言える。要するに、GDPとは、如何に大量生産・大量消費を実現したかが社会発展の尺度と捉えている指標なのだ。

そう考えると、GDPが測定できる人々の豊かさとは、所得や消費がもたらす豊かさであり、言い換えれば、所有による豊かさである。言うまでもなく、人間の包括的な豊かさから見れば、経済的側面による豊かさとはほんの一部に過ぎず、にもかかわらず、GDPは主観的幸福、社会福祉、教育レベルなどあらゆる豊かさの代理尺度と化している。

こうしたGDPと現実的な豊かさの間に存在する大きな溝への課題意識は、かねてから世界の識者間で議論されてきた。つまり、生産量だけを測るGDPに対し、豊かさを測る指標を作ろうといった動きである。人間の潜在能力を測定しようとする「人間開発指数(HDI)」や、GDPに家庭内での生産量を加算し、環境汚染への対策費や防衛費など差し引いた「真の進歩指標(GPI)」など様々な指標が長きに渡り議論されてきた。

こうした中で、今後、主流化するであろう取り組みとしては、OECDが進める多元的な人々の豊かさを測定するダッシュボード型指標、「より良い暮らし指標(BLI:Better Life Index)」が挙げられる。具体的には、社会的つながり、教育、環境、市民参画、健康、主観的幸福、安全、ワークライフバランスなど、持続可能性と社会福祉に貢献する11の指標が一覧表示される。現時点では、活用可能な国がOECD加盟国など40カ国に限られているなど課題も多く、今後、地球規模での公共財算出に向け国際協力が必要不可欠である。

今後、豊かさ指標に関する議論は、社会の自律分散化により多元化していく人々の豊かさと、持続可能な開発目標に向け標準化していく企業・社会活動の両立に論点が絞られていくだろう。ダッシュボード型指標という手段に関する議論を通じ、一歩でも本来の目標に向かっていくことを期待したい。
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